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□痛い
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シシ神さまがいなくなって、母さんが死んで…
あれからタタラ場のやつらは無駄に自然を壊さなくなったな。
でも、やっぱりエボシは許せない。
あの女の元にアシタカがいるのもなんか嫌だ………
今日は天気のいい朝だ。
タタラ場なんかに行くつもりはないが、暇だったサンは山を下っていた。
少し高い丘、そこからタタラ場が望める場所がある。
タタラ場自体があの事件で壊れてしまったから、今は跡地の開けた場所に小屋が点々としている状態だ。
サンは丘の上に腰掛け、足元に広がるタタラ場を見つめる。
「………………
アシタカがいる…」
人々に囲まれてアシタカが木材を運んでいる。
(あんなに沢山の人間と仲良くして……、あんなに笑顔で…)
アシタカの周りに女たちが群がって来た。
「あっ」サンは思わず立ち上がった。
女達は顔を綻ばせ、アシタカと喋りときに腕を掴んだり、手を引っ張ったりしている。アシタカは困った風に笑っている。
(なんなの。何話してんの…なにへらへら笑ってるんだよ………)
サンはアシタカの笑顔が自分に向いていない事がすごく嫌だった
(他の女と話す時間があったら私に会いに来いよ…
あ……
触らないで、誰もアシタカに触れないで…
アシタカも他の女なんかに笑うな。
私だけ……私だけに優しくして…)
胸が押し潰されるような感覚。
自分がアシタカのいる世界に入れない孤独感。
「心が痛い……」
初めて彼を思って、涙が出てきた。