砂嵐
□あなたへ。
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【アイリーンからカーティスへ】
暗闇の中。
静寂。
あなたには陽の光は似合わない。
あなたには何よりも闇が似合う。
その頬に着いた返り血さえも美しい。
「全く…馬鹿なことをしたものですね、あなたも」
あなたにだけは言われたくないわね。
カーティス=ナイル。
「家庭教師とその教え子…禁断の恋ですか」
あなたに何が分かるというの。
「まぁ…僕には関係ありませんけど」
いちいち嫌味な男。
「でも、そんなあなたが可愛くて仕方ありません」
心にも思っていないことをよく言える。
「さぁ、プリンセス。こっちへ来て。僕を楽しませてください」
あなたを楽しませる為じゃない。
私が楽しむ為よ。
「…綺麗な身体だ。本当に惜しい。僕のものになってしまえばいいのに」
冗談じゃない。
あなたも本当は分かってるんでしょ?
「そうだ。家庭教師を殺しちゃうっていうのはどうですか?そうすれば全部丸く治まりますよ」
何も治まるわけないでしょう。
もしそうしたら私があなたを殺すわ。
「ああ、そんな怖い顔しないでください。ちょっと言ってみただけです」
目が本気だったのは気のせいかしら。
「笑ってください、プリンセス。僕はあなたの笑顔が何よりも好きです」
その笑顔が偽物でもあなたは嬉しいの?
「このまま、ずっと一緒にいれたらいいのになぁ。…あの家庭教師、本当に殺してしまいましょうか」
本気か嘘か分からないのは私もあなたも同じ。
「好きですよ、プリンセス…。殺したいくらいに」
私もよ、カーティス。
いっそのこと、私を殺してくれたら
どんなにいいかしら。
この想いを胸に秘めたまま
あなたに殺されるのもいいかもしれない。
そうしたら
あの人は哀しんでくれるかしら。
泣いてくれるかしら。
『好き』と言えないのは私だけ。
この言葉を言えないまま
死んだら幸せなのかしら。