砂嵐
□My favorite Valentine
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「バレンタイン〜?」
ここは犯罪大国ギルカタールの王都。
そしてその王宮のある一室…正確に言うならば、ギルカタールのプリンセスである私の部屋だ。
目の前には護衛兼付き人のチェイカとアルメダの二人。
いつものように起きて、いつものように身を整える。
何も代わり映えの無い毎日。
のはずだったんだけど、その日は二人から考えたことも無かった言葉が飛び出した。
「ええ、バレンタインですわ。ご主人様」
「バレンタインですよ、マスター」
二人揃ってニコニコしながら言う。
「…そりゃ知ってるけど。どうしたのよ、急に」
「どうしたのよ、ってマスター、逆にこっちが訊きたいんですよ〜。やだなぁ〜。どうなさるんですか、バレンタイン。」
…アルメダに『やだなぁ〜』とかって言われると、なんだかムカつくのは気のせいだろうか。
それにしても…
「バレンタイン、ねぇ…」
そもそも、この国には『バレンタイン』と言われる行事は無い。
一般的な国民でも外国にはそういった行事があると噂や人伝に聞いたことがあるか無いか、という程度だと思う。寧ろ、貧富の差が激しいこの国の国民は知らない方が多いかもしれない。
だけど、ここ最近景気が良いせいなのか、そのお陰で様々な外国の情報が耳に入ってくる。
バレンタインもその中の一つだった。
『好きな人に自分の想いや感謝を、気持ちを籠めた贈り物(プレゼント)と供に渡す』
一体どうして自分の想いを伝えるのに贈り物が必要なのか、とか、別に伝えるのはバレンタインじゃなくてもいいんじゃないか、とか思わないでも無い。
ところが
「バレンタインだから、と普段は言えないことでも言えるというのもあるようですわね」
とは、チェイカの意見。
「別に贈り物をする相手は好きな相手や恋人と限ったわけでも無いようですしね。国によっては、世話になっている人物や身内、親しい友人に対しても送ることがあるみたいですよ。まぁ、感謝の意味で、って感じじゃないですかね」
こっちはアルメダ。
アルメダにしてはまともな意見だ。
この二つを聞いた私はなんとなく納得してしまった。
それでまぁ、話を戻すとそのバレンタインが目前に迫ってきているというわけで。
「もしどなたかに贈られるのであれば、そろそろご準備された方がよろしいかと思ったのですが…」