真っ暗な闇の音(ゴーストハント)
□禁じられた遊び
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どうやら目を覚ましたらしい彼女は生物室にあった液体の臭いに酔ったのかまだ起き上がれないらしい。難儀なこって、と考えながら作業に戻ると告げた渋谷さんについて行こうとしたけれど何だか嫌な予感がして足を止めた。
「――渋谷さん。やっぱり私も付き添ってて良いですか?」
そう告げると渋谷さんは少し考えたあと了承の言葉を述べて出て行った。麻衣を寝かせた時に綾子さんが私に視線を送った。
「……どうしました?」
「あんた、猫かぶりってバレてるのにまだ敬語でいるの?」
「あー……異常に口が悪いので勘弁してやってください」
「喋ってみなさいよ」
こうきたか。一瞬考えた後うにうにと唸る麻衣を見ながら椅子に座って目の前の綾子さんを見据えた。
「ここには鬼火がいる。保健室のも凶悪らしいから気をつけたほうが良いだろうな……それと、綾子さんは此処を私に任せて別の場所行ったほうが」
がばっ
私の言葉を遮るように起き上がった麻衣はまだふらふらするらしい。二人で会話をしている間出て行く綾子さんは私に視線をやる。
「大丈夫だ」
そう言葉をやると綾子さんは扉を閉めて走りだした。すると急に霊の気配がして麻衣から緊張が伝わる。
「教わった通りにやれば平気だ。麻衣なら大丈夫」
そう告げながら麻衣を落ち着けるように背中を撫でると真言を唱えだした。念の為にあれを出したほうがいいのかもしれない。けれどあれを出したらきっと自分の呼吸は今に止まるだろう。そう考えているといきなり床に投げ出されて転がる。――これはやばい。
「麻衣、部屋から出るぞ」
「うんっ」
うなづく麻衣の腕を引いてドアを引こうとした。その瞬間、小さい音が聞こえてその後は物凄い。マグニチュードやら何やらでは測れない程の地震のようなものが私たちを襲う。それから力が抜けて倒れる麻衣の腕を掴んで引き寄せるとどうやら床全部が落ちてしまったみたいだ。
「麻衣、落ち着けよ」
「わかって、る」
きぃきぃ、と何かの音がして目を細める。なんだろうかこれは。そう考えていると麻衣の中の不安が相当大きくなったのだろうか叫びだした。
「麻衣!?」
ドアを開けた音が聞こえてそっちを見ると渋谷さんがいて。嫌な予感はこれだけじゃない。寒気に襲われて壁に触れていると映像が流れ込んできた。
「ッ、ナル! 早く麻衣を引き上げろ!!」
「――何が」
「いいから! 天井が落ちる!!」
一瞬ナル呼びにたじろいだのだろうか、間が空いた渋谷さんに短く告げると麻衣と渋谷さんを投げつけるように麻衣の足を抱えてそのまま外へと投げとばす。天井がそろそろギリギリのようだ。
パキンッ
「――ッ! 刹羅!!」
天井が落ちてくるというのに自分は自棄に冷静だった。こういう時は頭を庇うべきか。と考えながら渋谷さんに言葉を。
《PKは使うな》
瞬間、身体に天井のものが全部落ちてきた。誰かが叫ぶ声が聞こえたけれどきっと麻衣だろう。――こういう時は弱い立場の子を助けるのが普通だ。まあ、それは良かったと思っておこう。
刹羅!
「――刹羅!」
声が聞こえる。けれど結構痛いものでそしてしばらく気を失ってしまっていたらしい。薄らと目を開けるとやっぱり自分は頭を庇っていたらしい。動けないほどの怪我は無いみたいだから大丈夫なようだ。
「――大丈夫。」
そう返しながら自力で其れを退けた。ものが乗っかっていたせいで体の節々が痛いけれどなんとかなるだろう。よいせ、と保健室の前に座ると両手を合わせる。
「――複合」
元に戻っていく其れを見ている人たちの誰かがため息をついた。綺麗に修復される物と綺麗に並べられるベッド。忽ちそれは元に戻っていったのだった。