散ってゆく音(アホリズム)

□第四夜
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此の間の蝕は『宴』だったらしい。
何も関わらずにいたかったけれど、潤目君に引っ張られてしまって。
酔うまでおじさん達に飲まされたのは記憶に新しい。




一人でご飯を食べながらそう言えば一組の人とほとんど話していないことに気づく。
ぼそぼそ、と声がなる方向には同じクラスの六道くん。


彼はあかずの間から出てきたという噂の子だった。


わたしみたいに“特殊”だったらともかく彼はどこからどう見ても普通の子だ。



他力本願ってこう言う事言うんだろうな。と思ったけれどそれ以前に離れないのは潤目くんの言葉。



『何時までその作り笑い続けてるつもりなの?』


生まれてこの方バレていない“笑み”が通用しないとは思わなかった。
六道くんを過去っていた人がいなくなる。
よいせ、と立ち上がったわたしはつい、と六道君に近づく。笑みをのせて。



「大変だねえ、六道くんー」


あまり離れてなかったけれどからかうつもりでそう話すと誰だ、と聞こえた。


「ああ、どーもどーも!
 わたしは音無彩楽でーす」


「え、ああ! 音無さんだ!」


「知ってるのか?」


「知ってるも何も同じクラスの子だよ!」


「どーも、日向君、比良坂さん!
 あ、六道くん大丈夫だったー?
 これ、ドーナッツ。美味しいよ?」


はい、とドーナッツをあげると笑いながらありがとう、と言ってくれた。
よしよし、と頭を撫でると日向くんが立ち上がってわたしを見下ろす。


「どったの?」


「……背がでかいな、と思ってな」


「成長したのは背だけだよー」


あはは、と笑ってみればため息をついた日向君はそうみてえだな、とつぶやく。
さて、じゃあわたしは行くね。と言えばうなづかれたから部屋へと戻る。




――はしゃぎすぎたかな。




帰ったら何しようか、と考えて部屋の扉を開けると潤目君がいた。


――幻覚?


「ええ、と潤目君?」


「君物騒なもの持ってるね」


見せられた木刀と小太刀。
見つかったか、と考えれば肩をすくめるしかない。


「一応ね、錯乱して生徒に殺されるのはゴメンだからね」


「ふーん……じゃあ僕が殺しにかかったらどうする?」


「止めてあげるよ。今ね」


にーっこり。と笑い合いながらえぐい会話。
潤目君は持っていた木刀を“刀”に変えた。
わたしは其れに対してブーイング。


「流石に死んじゃうって。刀は」


「殺しにかかるんだよ。」


「んもー。じゃあしょうがないなあ」


スカートから、詳しく言えばスカートの下のガーターベルトから小太刀を出して刀まで長さを引き伸ばした。



「潤目君ほっそいのに剣術出来るの?」


「ほっそいからとかじゃないだろ?
 使える程度に体は動かしてる」


まあそうか。
じゃなければわたしを抱えて運ぶなんて出来ない。


「やるんだったら外でやろうよー部屋狭いしやりにくくない?」


わたしの提案で外に出る。
そうして刀を構えたわたしたちは互いに見合った。


「勝ったら僕の言う事聞いてもらおうかな」


「えー、何か怖い。
 じゃあわたしが勝ったらアイスでもおごってもらおーかな!」


これは殺し合いじゃない。
ただの試合。


すう、と息を吐きだして足を踏み出す。
キィイン。という高い音に目を細めた。
耳が痛い。


刀がぶつかり合って思わず息が切れる。
やばいかな、と思ったけど。


「――とった。」


わたしの刀はきちんと潤目君の首に入っていた。けれど下を見ればきちんと潤目君の刀が私の心臓を捕らえている。


「引き分け?」


「そうだな……じゃあアイス買ってあげるから言うこと聞いてね」


「引き分けだったら何もなしじゃなかったの?!」


「誰もそんなこと言ってないよ」


王子様スマイルでそんなこと言われても。
仕方なく、自分は降参した。



けれど、次の日。
わたしたちは地獄を見ることになる。
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