散ってゆく音(アホリズム)

□第三夜
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「嘘って、どういうことー?
 わたし馬鹿だからわかんないんだよねえ」


背中に冷や汗が流れる。
冷や冷やしながらにこにこ、と笑って首を捻るとため息をついた潤目君はじ、とわたしを見ながら近づく。


――え、ええと……?



「何をする、の?」


近づいたら退いちゃうのがわたしで。
目を細めた潤目君は私の項に指を伸ばした。


――嘘、バレてる……!


自分の文字は項にある。
だから普段は髪を下ろしていれさえすればバレない。
けれど、蝕の時はやっぱり動かないといけないから邪魔になる。だから仕方なく括っていたのだ。




「此処に文字、書いてあるだろ?」


少し乱暴な口調にわたしは降参をするしかないかなあ、とぼんやり思った。けれど。


「ええと……あなた達が今回一緒の人?」


物凄く助かった。
内心でお礼を言いつつ笑ってうなづくとその人はほ、と息をつきながら走ってきた。



「もう、時間がないみたい……」


かしゃ、という音は時間を刻んでいる。
その子は四組の尊川しずな、と言った。
各々自己紹介したあと直ぐに出口へ歩き出す。




《鍵を持った者だけしか此処を出れない》


そんな戯言が聞こえてふう、と息をつく。
やっぱりわたしに来たかー、みたいな感じ。


「さて、どうしようかなあ。」


しずなちゃんは文字の使い方がわからないと言ってるし、此処は潤目君に聞こうかな。


「潤目君ー、文字……使ってなんとか出来ない?」


「あー……できないことはないけど」


唸っている潤目君。
使うかどうか迷ってるみたいだけど時間あまりないよ。



「文字は何ー?」


「変、だね」


「じゃあ、はい。」


落ちていた木の棒を拾ってつい、とそれを渡すと潤目君は黒い笑みを浮かべた。
しずなちゃんが怖がるからやめて。



「ほら、早くしないとわたし達死んじゃうよー?」


「ちっ、わざとらしいんだよ。」



舌打ちをした潤目君はそのまま木の棒を捨てた。――あれ、どうするんだろう。



「――変」




龍に向かって唱えられたそれ。
ええ、それってアリ?
鍵に変わったそれを持った潤目君は猫かぶりの王子様スマイルで行こうか、と言った。





――怖いですよ、潤目君。





かしゃ、かしゃ。
時間制限が近い。




「――走ろう。」



潤目君がそう言ってしずなちゃんの腕を引く。おお、何ともいい感じですね。
わたしが後ろをついていきながら走っていると少しずつ崩壊していく扉。




――し、ぬ。




「――時!」




時間と壊れる空間だけを止めて。
歌いながら必死に走る。


だから、気づかなかった。
二人がびっくりしている顔をしているなんて。
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