感情幸福論

□第10話
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銀八は改まるように高杉に向き直った。
高杉も姿勢を正し、聞く態勢になる。
それを見てから銀八は話し始める。


「昔の話なるんだが…俺にもな、愛してた奴がいたんだよ。そいつも男でな…」


小学生の頃、銀八とその男は出会った。
顔を合わせれば口喧嘩をし、酷いときには
殴り合いをしていたほどの、いわゆる
犬猿の仲だ。

お互い好き合っていて、中学の頃、
めでたく交際が始まった。
告白したのは男の方からだった。

なのに、銀八を裏切った。
高校の頃、銀八と付き合っているにも
関わらず、そいつは女と付き合っていた。


『男と付き合ってるなんて恥だ。若気の至りってやつだな。今思うと気色悪ィ…』


その言葉が今でも忘れられなくて。
それから二人の縁は絶ってしまったのだった。


「なんかありがちな話だよなー。まぁ、男同士なんて所詮そーゆうもんなんだ」


顔は笑っているのに、目は哀愁を
帯びていて。
無理に笑っているのが分かる。
高杉は涙をぐっと堪えた。

なぜ、そいつのせいで銀八は
傷つかなくてはいけないのだろう。
過去から抜け出せずにいる銀八。


「銀八…俺はそいつと全然違う。“高杉晋助”だぜ…」


それだけ言ってその場をすぐ離れた。
俺のせいで辛い過去を思い出させてしまった。
泣きたいのは銀八なのに。
俺は泣いたらいけないのに。

ゴシゴシと目元を拭いながら家へと走った。






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