感情幸福論
□第10話
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銀八は深いため息を吐いた。
「追いかけなくていいんですかィ?」
不意に声をかけられ、パッとそちらを見る。
総悟と神威がドア付近に寄りかかって
こちらを見ていた。
「盗み聞きしてたのか…?」
「聞こえちゃっただけだヨ」
くるりと黒板のほうに体を向ける
銀八の前に総悟が立つ。
「銀八、さっき晋助が言ってた意味、分かってやすよねィ?」
銀八はチラッと総悟を見てから
外に目をうつした。
その瞬間、総悟はバンっと力強く
机を叩いた。
「いい加減にしろィ!!」
いつまでたっても行動しない銀八に
とうとうキレたのだった。
「あいつはっ、晋助は裏切るなんて最低なことするわけないだろィ!!晋助をそんな奴と一緒にしないでくだせィ!!」
「わかんねぇよ?若いのがこんなおっさん相手にしてさぁ。やっぱり綺麗なネーチャンのほうよかったって思うぜ」
「そんな半端な気持ちで、テメーのこと好きになるわけ、ねぇよ…」
総悟は途切れ途切れに言葉を繋いだ。
「あいつがどこがいいのか全然わかんねぇこんなおっさん一途に想い続けてる姿を俺ァずっと見てきたんでィ。…信じてやってはくれやせんかね」
「総悟……」
神威にとめられていつの間にか瞼に溜まった涙がポロリとこぼれて、
それを神威が自分の袖で優しく拭っていた。
総悟と高杉の言葉が頭の中でグルグルする。
高杉は高杉。あいつと高杉は違う。
『銀八…俺はそいつと全然違う。“高杉晋助”だぜ…』
そう言った高杉の泣きそうな顔を思い出す。
過去にとらわれすぎて、傷付けないつもりが
逆に傷付けてしまった。
「高杉…」
ガタッと勢いよく立ち上がり
教室を出て行った。
「やっと行ったネ」
「…あぁ。まったく、手の掛かる二人でさァ…」