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□鬼の撹乱(執筆中)
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「あ〜アカン…。ボッスン、アタシ今日はもう帰るわ。」
いつもより若干顔を赤くしたヒメコが、ダルそうにそう言った。
いつものスケット団部室内。
ボッスンの道具を扱うカチャカチャという音以外は無言の空間では、あまり大きな声ではなかったというのにヒメコのその言葉はよく響いた。
言われたボッスンは、道具のメンテナンスをしていた手を休め、意外そうに目を瞬く。
「なんだ、どうかしたのか?」
「何か身体がダルくてしゃあないねん。頭もガンガンするし…。軽い風邪や思てほっといたけど、さすがにキツうなってきたわ。」
「え?おっかしいなぁ〜。」
妙に真面目な顔をして疑問の言葉を呟くボッスンに、声を出すのも億劫なヒメコは視線だけで先を促した。
「バカは風邪ひかな…ゲフッ!!」
何を言うつもりなのかと大人しく聞いていたが、内容を察したとたん、ボッスンが言い終わらぬうちにヒメコの鉄拳が飛んできた。
「アンタな〜!か弱い乙女がこないに苦しんでるっちゅうのに…――ゲホッゲホッ!」
『どこが“か弱い乙女”だ!』と突っ込もうとしていたボッスンだが、苦しそうに咳き込むヒメコにさすがにふざけすぎたと思い、彼女の背中をさすりながら心配そうに顔を覗きこんだ。
「マジでキツそうだな。ふざけて悪かったよ。今日はもう帰ってゆっくり休め。」
いつものふざけた雰囲気は一切なく、本気で心配されているのだということがわかってヒメコは思わずときめいてしまう。
ボッスンは誰にでも優しく、これがスイッチであったとしても同じように心配するであろうことはわかっているのだが、嬉しいものは嬉しいし、期待してしまう心を止めることができない。
触れられた箇所を妙に意識してしまい、心臓が自分のものとは思えないほどに早鐘を打っていた。
「ほな、そうさしてもらうわ。」
赤くなっているだろう顔を隠すようにうつむき加減でそう言うと、ヒメコは荷物を掴んで立ち上がった。
「待てよ。家まで送ってくから。」
先ほどのがよほどキツそうに見えたのか、心配したボッスンがそう申し出る。
しかしヒメコは、自分は大丈夫だというように笑ってみせた。
「そんなんええよ。一人で帰れるから。」
(それにこれ以上二人きりでおったらアタシの心臓が持たへん…。)
「スイッチにもよろしく言っといてな。」
用事があるとかで、いまだ部室に来ていないスイッチに伝言を頼むと、まだ何か言いたげなボッスンを後目にそのままそそくさと部室をあとにした。
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