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□ずっと一緒にいたいから
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「いーい!?絶対待っててよね!先帰ったら僕、こーちゃんに弄ばれた挙げ句捨てられたって言いふらすからね!!」

「なんだそれ…。わかったから早く行ってこいよ。遅れたら余計に怒られるぞ。」

「わざわざ呼び出すなんて、まったくいい迷惑なんですけど!」


ブツブツと膨れっ面で文句を言いつつ教室を出ていったあきらを見送ると、晃一は溜め息をついた。
今あきらが向かった先は職員室で、あきらのあまりの成績の悪さを見かねた担任から呼び出しをくらったのだ。


「あきらが戻ってくるまでヒマだな・・・。」


しばらく考えた末、学生らしく勉強でもしていることにした。



*****



「あ〜あ、まったく!とんだ無駄な時間過ごしちゃったよ!こうなったらこーちゃんに何かお菓子でも奢ってもらわないと!」


ようやく担任から解放され、理不尽な怒りを晃一に向けながら、彼が待っているであろう教室に足を踏み入れた。

あきらは、自分の姿を見つけた晃一がいつもの優しい笑顔で『お疲れ、あきら。』と声をかけてくるだろうと予想していた。
しかし、いつまで待ってもその言葉があきらの耳に届くことはなく、見れば晃一は机に伏せって眠っていた。


「もう!僕がこんなに疲れきってるっていうのに気持ちよさそうに眠ってるなんて!!」


怒りを露わにしながら晃一の顔を覗きこむと、普段勉強のときにしかかけない眼鏡をかけていた。
よく見れば机の上には教科書やノートが広がっていて、寝る前は勉強をしていたのだということがわかる。


「………授業以外で自主的に勉強するなんて信じらんない…。」


晃一は頭も顔も良く、背も高くて女子にも人気がある。
あきらの敵う所など一つもないのに、こうやって自主的に勉強されてはその差はますます広がるばかりだ。


(これじゃいつまで経ってもこーちゃんに追いつけないじゃん…。)


不意に、先ほど担任から言われた言葉が思い出される。


『お前このままじゃ大学に進学できないぞ。もう少し東を見習え。』


はっきり言ってあきらにとって大学なんかどうでもいい。
ただ、いつまでも晃一と一緒にいたいだけなのだ。

あきらの人生プランは、晃一と一緒の大学に行くだけにとどまらず、晃一と家庭を築く(?)など、その後のことまでずっと出来上がっているというのに、現実が追いついてこない。
進学まで危ぶまれているようじゃ、同じ大学を目指すなど夢のまた夢だ。

あきらが不安に押しつぶされそうになっていると、晃一が身じろぎしてムクリと顔を上げた。


「……あれ、いつの間に寝てたんだ。」


しばらく寝起きのためボ〜っとしていたが、あきらに気付くとふにゃりとした笑顔を浮かべる。
まだ少し寝ぼけているのか、その表情は普段より幼く見えて、あきらは思わずどきりとした。


「何だ、戻ってたんだな。起こしてくれて良かったのに。お疲れさま。それじゃあ帰るか?」


そう言って勉強道具を片付ける晃一に、あきらは先ほどの不安をぶつけるかのように、ついトゲのある言葉を投げかけてしまった。


「優等生は自主的に勉強までしちゃって偉いですね〜。そんなに成績で差をつけて僕を見下したいわけ?」


あきらはよく無邪気に見せかけて毒を吐くが、これは何となくそれとは様子が違う気がして、晃一は怒るでもなく正直に思っていることを口にすることにした。


「俺はあきらと同じ大学に行きたい。でも、勉強教える方に余裕がないと元も子もないだろ?」


だから勉強するんだ、と晃一は微笑む。
その言葉を聞いて、あきらは胸が微かに温かくなった感じがした。


──こーちゃんも僕と同じ気持ちだったんだ…。

さっきまでの不安が消し飛んだあきらはいつもの調子を取り戻し、明るい笑顔で晃一を急かした。


「ほらほら何してんの。早く帰って僕にお菓子奢ってよね。」


その様子にあきらの気分はどうやら浮上したようだと知り、晃一は「ハイハイ。」と苦笑しながらも、先に教室を出ていったあきらの後を追った。











いつか離れるときが来ると人は言うけれど、2人共がずっと一緒にいることを願うのなら、その望みはきっと叶うよね。

──それこそ死が2人を別つまで。


fin

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