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□幼馴染み
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「昶君たちは所謂“幼馴染み”というやつにあたるんですか?」


白銀の突然の言葉に、屋上で昼食のパンを食べていた昶と賢吾はポカンとした。
しかし、それからいち早く復活した賢吾が白銀の問いかけに答える。


「う〜ん、昶とは小学生のときからの付き合いだし、言われてみればそういうことになるのかな。でも急にどうしたの?」


その質問に答えたのは白銀ではなく昶だった。


「お前、もしかして昨日見たテレビの影響だろ。」

「テレビ?」

「はい。ゲストの有名人に縁のある人物をスタジオに呼ぶという企画だったんですけど、そこにその人の幼馴染みだという人が来たんですよ。それ見ててふとそういえばと思いまして。」


それを聞いて賢吾は合点がいったという風にうなずいた。


「なるほどね〜。でも言われるまでそういうの考えたことなかったよ。そっか、俺たち幼馴染みなんだよな。」


そう言う賢吾の顔はどこか嬉しそうに微笑んでいる。


「お前、何でそんな嬉しそうなんだよ。」


思わずそう尋ねた昶に賢吾は少し照れ気味に答えた。


「だって親友で幼馴染みってなんか良くない?“親友”ってだけよりもっと特別な感じして。」

「そうか?ていうか、いつお前と親友になったんだよ。」

「えぇ!?だって俺たち親友だろ?」

「そりゃお前の妄想だろ。」

「Σガーン!」


ショックを受ける賢吾を無視して昶は黙々とパンを口にしている。
そんな昶の態度に賢吾は白銀に泣きついた。


「うわ〜ん、白銀さん!昶のやつひどいよ〜!」


白銀は抱きついてきた賢吾の腰にさりげなく腕を回しつつ、よしよしと頭を撫でながら賢吾をなだめた。


「元気出してください、賢吾君。きっと昶君は賢吾君のことを親友じゃなく下僕だと思っているという意味なんですよ。」

「それ全然慰めになってないよ!?」


そのままくっついた状態で会話を続ける2人に、昶はおもむろに近づくと賢吾の肩に手をかけた。


「まぁでも…。」


そしてベリッと2人を引き剥がすと、賢吾の耳元に唇を寄せそっと囁く。


「幼馴染みで“恋人”にはなってやってもいいけどな。」

「えっ、それって…。」


呆ける賢吾を置いて、昶は屋上を後にした。
影化が解けないよう、白銀も昶の後を追いかける。


屋上からの階段を半分下りたところで白銀は昶に話しかけた。


「どさくさに告白ですか。」

「誰が告白なんてした。あいつは昔から俺のものって決まってんだよ。ああ言ったのはいいかげん自覚させてやろうっていうせめてもの親切だ。」


揶揄するような白銀の言葉に、昶は平然と真顔でそう言ってのけた。
そして威圧的な目を白銀に向ける。


「だからお前も余計なちょっかいかけるなよ。」


言われた白銀はキョトンとした。
そんな白銀をチラと一瞥すると、昶はまたスタスタと歩を進める。


(……私が賢吾君に手を出そうとしていること、バレてたんですね。先ほどのは賢吾君にというより私への牽制の意味の方が強いようだ。)


とはいえ実際に言われたのは賢吾であるし、きっと今頃は混乱しきって午後の授業どころではないだろう。
そんな姿が容易に想像できる賢吾と、先ほどの昶を思い浮かべて白銀はクスリと微笑んだ。


(まぁ、今は様子見ということにしといてあげますよ。まだ入り込む余地はありそうですし…。)


ああやって牽制してくるということは、おそらく口で言うほど自信があるわけではないのだろうから。

白銀は余裕の笑みを浮かべると少し先を歩く昶を追いかけた。


fin

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