献上物

□700hitキリリク
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いつもは部活動にいそしむ者たちの声で騒がしい放課後。
今はテスト前ということで部活はどこも休みなため、シンと静まり返っている。

生徒会の仕事帰り、廊下を歩きながら夕暮れに染まる教室をふと見やると、一人机に向かう生徒がいた。
グリーンはそれが自分のよく見知った人物だと気付くと、よそのクラスだというのに迷わず教室に足を踏み入れた。


「何しているんだ、レッド?」


よほど集中していたのか、グリーンが声をかけてからやっと顔を上げたレッドは、しかし予想していたような驚く様子は少しも見られなかった。


「待ってたぜ、グリーン。ちょっとここ教えてくれよ。」


そう言ってレッドが指し示したのは、理科のプリントだった。


「待ってたって…。というか、そのプリントは何だ?」


レッドはグリーンの隣のクラスで、理科も同じ教師が教えている。
つまり、授業内容も同じはずだが、宿題のプリントなどは出された覚えがない。


「この間の小テストで、0点取った奴は居残りさせるって先生が冗談で言ってたんだけどさ、俺ホントに0点取っちゃって。」


これはその居残り用のプリント、と笑って言うレッドにグリーンは呆れたようなため息を吐いた。


「お前、そこまで成績悪くなかったはずだろう。どうしてそんな点なんか…。」

「そのテストしたの5時間目でさ、ただでさえ眠くなる時間帯なのに、寝不足気味だったもんだからテストの間ずっと寝ちまったんだよ。」


寝不足の理由は大方、借りたマンガを遅くまで読んでいたとかそんなところだろう。
朝、そのせいで寝不足だと言うことがレッドの場合よくある。


「教えるのは構わないが、だったら俺のクラスで待ってればよかっただろう。気付かずに帰ってたらどうするつもりだったんだ。」


実際、レッドとは特に約束をしていたわけではなかったし、テスト前なのにこんな時間まで生徒が残っているとは考えてもみなかった。
偶然にもレッドのクラスに目を向けるようなことがなければ十分あり得ただろう。

グリーンがもっともな疑問を口にすれば、レッドはなんてことでもないように答えた。


「でも、ちゃんと気付いてここに来ただろ。俺、グリーンなら絶対に気付くと思ってたからさ。」

「………。」


それはどういう意味だろう。
いや、言葉の意味はわかるのだが、どうしてそう思ったのか、その根拠が読めない。


(もしかして、俺の気持ちに気付いているのか…?)


実は、先ほどはああ言ったが、グリーン自身もレッドの存在にはどんなときでも気付けるだろうと思っている。

それについて根拠があるわけではないが、実際、どんな人混みの中にいようとレッドに気付けなかったことはない。
無意識にレッドの姿を探していることはよくあるし、レッドのクラスの前を通るたびに用がなくても中にいるであろうレッドの姿を確認してしまうのはもはや癖のようになっている。

しかしそれはレッドへの恋愛感情があるからこそであって、それをレッドがさも当然のように言うということは……。


知られていること自体は歓迎すべきことなのだろうが、何せいきなりすぎて心の準備ができていない。

どう反応を返すべきか悩みあぐねて二の句を告げられずにいると、その前に重ねてレッドが発言した。


「俺もたぶんグリーンがいれば気付くと思うし。」


その言葉にグリーンはさらに混乱した。


(それはお前も俺と同じ気持ちだということなのか…?)


それはいくらなんでも都合良く解釈しすぎだ。
いやでも、もしかしたら…。

勝手に期待してしまう心と、それを冷静に否定する理性とでグリーンの頭の中はぐるぐるしていた。
緊張のためか別の理由か、心臓がドクドクとうるさく鳴っている。


(いっそ真意を問いただすべきか…!)


そうグリーンが決意して口を開きかけたとき──


「だってこんだけ長年一緒にいればもう気配でわかるだろ。」


そう言うレッドの顔を見れば、何の他意もないことがわかる。
グリーンは一気に脱力して、思わずため息を吐きそうになった。

気持ちに気付かれていなかったことを喜ぶべきか悲しむべきか…。



一方、先ほどから何も言わないグリーンに、何かまずいことでも言ってしまったのだろうかとレッドは不安そうにグリーンを見上げる。
そんなレッドに気付いたグリーンは思考の淵から舞い戻り、軽く息を吐くと彼にしては珍しく優しげに微笑んだ。


「それで、どこがわからないんだ?」


その言葉にパァッと一気に表情を明るくしたレッドは、先ほど指差していた問題をもう一度グリーンに示す。


「ここなんだけどさ…。」


それをレッドの前の席に腰かけながらグリーンは覗きこんだ。





レッドの答えはグリーンの望むものではなかったけれど、こんなとき一番に頼りにされる存在ではあるのだ。
今はそれでいいじゃないか、とブルーに知られたらまたヘタレと言われそうなことをグリーンは考えた。
とはいえ、半分は自分に言い聞かせるようにだが…。

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