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□rainy day
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朝のHRの時間である今、特別教室だけであるここの階には人っ子1人いない。
その中でも滅多に使われる事のない教室に入って、昶は一息ついた。


「賢吾君、意外と友達多いんですね。」

「賢吾はあの通りバカで人懐っこいからな。マスコットとして可愛がられてんだろ。」


クラスメイトから代わる代わる構われていた賢吾を見ての感想だろう。
周りに人がいないため、昶も白銀に普通に答える。

それに…と昶は賢吾について思い出していた。

小学生の頃、クラスの輪の中心にはいつも賢吾がいた。
人を寄せ付けない昶のそばにいるようになっても、賢吾が誰からも好かれる事に変わりはなかった。
たまに不良と殴り合いのケンカもするが、普段があの調子なので怖がられるようなことはなく、それどころか先ほどのようによく可愛がられている。

それが昶には面白くなかった。
賢吾をいじっていいのも犬扱いしていいのも自分だけなのだ。

しかし、ふと、それは間違っているんじゃないかと思う時がある。

そもそも、いつも賢吾は巻き込まれる側なのだ。
昶と一緒にいなければケンカなんか元からする必要もないし、今だって命がけの戦いに巻き込んでしまっている。
自分さえいなければ、賢吾はあの何も知らず平和に笑っている側の人間なのだ。

そのことについては、賢吾にグローブを渡すとき自分の中で整理をつけたはずだった。
しかし、たまにまた考えてしまうのだ。


きっとこんな暗い思考に陥ってしまうのはこの雨の所為だ。
授業を受ける気にもならないし、今日は帰ってしまおう。


そう思い、昶が立ち上がった瞬間、教室の扉が開いた。
そこから顔をひょこりと出したのは、先ほどまで昶の思考を占めていた賢吾本人だった。


「あー、昶。こんなところにいた。探したんだぜ。どうせ今日はもう帰るんだろ。そう思って昶の分の荷物も持ってきてあげたよ。」

「何で…。」


あまりにタイミング良く現れたため思わず呆然と呟いてしまう。
そんな昶の言葉を、どうしてそう思ったのかという疑問だと受け取った賢吾はあっけらかんと答えた。


「何でって…何となく?気付いたら昶いねぇーし、俺も授業受ける気分じゃなくなっちゃったから昶もそうかなって。」


一緒に帰ろうぜ。
笑って荷物を差し出す賢吾に、勢いで普段なら絶対口に出さないような事を言ってしまった。


「お前、別に無理して俺に付き合う必要はないんだぜ。俺がすることをお前までしなきゃいけないなんて道理はないだろ。」


賢吾はその言葉にきょとんとした後、何を分かり切った事をと呆れたような表情で言った。


「別に無理してなんか無いよ。俺が昶と一緒にいたいからそうするの。俺は俺の好きなようにやってるよ?それに…。」


一度言葉を切ると、今度は満面の笑みを昶に向ける。


「言っただろ。俺は昶の相棒だって。」


その言葉に今までのモヤモヤが嘘のように心が晴れていた。
この天気が続く限り、決して晴れる事はないだろうと思っていたのに。


「………下僕の間違いだろ…。」


いつものように素っ気ない言葉を返す昶だが、その声はとても小さく頬もわずかに赤くなっており、照れているのだということがわかって白銀はクスリと微笑んだ。


「もう、こんな時くらい素直になればいいのに。」

「黙れ、白銀。」


そんな2人のやり取りを不思議そうに見ている賢吾の横をすり抜け、昶は教室の扉に手をかけた。
扉を開き廊下に出る直前、いまだ突っ立ったままの賢吾を振り返る。


「………帰るんだろ。さっさと来いよ。」

「……うん!」


嬉しそうに昶に駆け寄る賢吾の背後、窓の外はいつの間にか雨が上がり、雲の合間から光が差し込んでいた。






おまけ↓


「へへっ。」

「何笑ってんだよ。」

「んーん。ただ昶と一緒にいれて嬉しいなって。」

「なっ///、何馬鹿な事言ってんだよ!殴るぞ!」

「いてっ!殴ってから言うなよ!」


fin

→あとがき
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