オレは朝一番の教室、すぐに目に入った姿に思わず思考・身体ともに一時停止した。
それはオレの想い人の長かった髪がばっさりと短くなっていたからだ。
彼女のことが気になり始めたのはもう随分と前のことで、気づいたときには「気になる」気持ちは恋心に変っていた。
数ヶ月前の席替えで運よく隣になることが出来て、それまでのただのクラスメイトではなく仲の良い異性の友達くらいにはなれたと思ってる。



オレが彼女を気にするようになったきっかけは流れるように綺麗で真っ直ぐな黒髪だった。
授業中、窓際の席でさらさらと風に靡いているのが目に入り、此処が教室で今が授業中だなんてこと頭から飛んでしまうほどその姿に目が奪われた。
それから自然と目で追うようになっていき、彼女の優しさや笑顔、全てがオレの心を奪っていった。
けれどやはり目がいってしまうのはその綺麗な髪で。



席が隣になってから前に一度訊いたことがある。
「髪伸ばしてるのか?」
「うーん、伸ばしてる、っていうよりはなんか切れないんだよね。何度も切ろうって考えはしたんだけど。」


そういって苦笑いしていた彼女がいきなり、切れずにいた髪をばっさり。どうして驚かずにいられよう。



「あ、山本。おはよう。」

「はよっす。髪、切ったんだな。」

「うん。……変、かな。」

「いや、それもいいと思うぜ!」



そう思ったのは本当だ。短いのは短いので十分似合ってる。
ただどうしても、何故髪を短くしたのか、気になって気になって仕方ないんだ。
切ろうと思っても切れずにいた彼女の心境に何か大きな変化を与える出来事があったのだろうか。
女の子が長かった髪を切るきっかけになりそうな出来事――ベタなところだと失恋、とか?





「ねえ、何で切ったのか気になる?」

「え?」

「いや、そんな顔してたから。」

そんなに顔に出てたんだろうか、オレ。なんか情けない。

「…なんで切ったんだ?」

「前に切れない、っていったでしょ?あれ、前に付き合ってた人が忘れられなかったからなの。けど他に好きな人ができてやっと忘れられたから。」

「………………」




何て返せばいいのかわからなかった。
オレがずっと彼女を見ている間彼女は他の誰かを見ていたことも、彼女に今その人以上に好きな人が出来たということもオレにはショックで。
そんなこと全然知らなかったし少しくらい自分にも可能性はあると思ってたから、それが自惚れなんだなって。


教室の後ろ扉から友達に呼ばれた彼女は「あ、ごめん。ちょっと行ってくるね。」と席を立った。
席を立って数歩歩いたところで彼女は足を止め、こちらを振り向いた。





「前の人のこと忘れられたの、山本のおかげだよ。ありがとう。」








はにかみながらそれだけ言って友達のところにかけていく彼女の短くなった髪を風が揺らした。







(山本武/高校生?)
遥姫(侑慧遥槻) 20081018


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