Dream心霊探偵八雲
□黒い影
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バイトが終わった夕方、藍屋 奏(アイヤカナデ)は足早に家路を急いだ。
「寒い〜〜っ!」
この時期は暗くなるのも早い。
落ちかけていたマフラーを直し手をポケットに入れた。
「奏ぇ〜!」
後ろの方から名前を呼ばれ、走ってくる足音が聞こえた。
「蒼太さん!」
神木 蒼太(カミキソウタ)、彼は4歳年上の先輩であり、決して恋人だとかそういう関係ではない。ただの小さいころから仲のいい存在だ。
「こんな暗いのに、一人で歩くのは危ないよ。一緒に帰ろ!」
「はいっ」
自分たちの家に帰るためには、フェンスで区切られた自衛隊の敷地の隣を通らなくてはいけなかった。
敷地の中には、錆びたトタン壁の倉庫が何棟もそびえていた。
今は関係者の人達も使っていないらしい。
「…ここ、いつ通っても気味悪くないですか?」
「確かに。なんか寒気がするというか、通るたびにヒヤッとする。」
外套も少ないために昼以上に不気味さが溢れている。
ふと、奏が立ち止まった。
「だ、誰かがいた!」
ある倉庫の方向を向いて目を見開いていた。
蒼太も立ち止まってその方向を見るが誰もいなかった。たまに、感じることはあったけど…
「はぁ?人がいるはずないだろ」
蒼太は笑いながら歩き始めた。
奏は少々怯え気味で蒼太の腕にしがみついた。
「俺がいるから、安心しろよ」
落ち着かせようと、隣にいる奏を見た。
とその時、奏が見ていた方向から何かが向かってくるのが見えた。
「なんだ!?」
「…っ!!??」
そこにはモヤモヤとした黒い影が蠢いていた。
これはずっと前も見たことがある。
自分たちの影だとしても蠢いている影は1つしかない。
しかも、今歩いているところは外套がない。
だが今回はどんどん影は距離を詰めて来る。
「いっ、嫌ぁぁ!!!」
「逃げるぞ!!」
そのまま2人は無我夢中で走った。