野球
□トキがとまる時
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神は一人に限らず―
ある神は微笑む
まるでこの運命を知っていたかのように
またある神は笑う
まるでこの運命を楽しんでいるかのように
**トキがとまる時**
何故、こうなったのか考える気力すら残っていない
目の前には人口呼吸器をつけて眠っている俺の愛する人―
もうずっと目を覚まさない俺のたった一人の恋人―
「猪里――」
もうここで何度この名前を呼んだのかすら覚えていない
ここに来て何時間たったのだろうか
俺はずっと猪里の手を握っている
シーツも制服も涙でぐしょぐしょだ
ガラッと戸が開く音がする
「猛…臣…?」
その名を呼ぶ声は恐怖以外の何者でもなかった
俺にはそれが誰なのか確認することすらできなかった
大方猪里の親だろうと分かったがどうも話す気にならない
おそらくあちらもそうだろう
泣きくずれる猪里の母親
それを支える父親
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