短編

□曲がりくねった道の先は  <前篇>
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例えるとするなら、この恋は桜のようなものだ。美しく咲き誇り儚く散ってしまう。
叶わないと知っていても願ってしまうのが人の常。それはいつの時代もどんな人間も変わらない。




「好き、なんだ」


京香は飾りもせず純粋な想いを天馬に告げた。
普通の女子ならば不安と期待が入り混じった、そんな感情を抱くのだろう。
京香にはない。いい返事だろうが悪い返事だろうが、どちらにしろ京香にとっては虚無感を得ることには変わりない。


「……じゃあ付き合おうか」


いつもの笑顔はそこにはない。天馬の目には冷たい光しか宿っていなかった。
予想通りというべきなのか、やはり京香に喜びなどというものは微塵も訪れなかった。悲しいという感情をせめて今だけは、と小さく笑い闇の底へと埋めていく。
天馬はそれ以上は何も言わずバッグを持って部室から出て行った。

一粒、二粒と雫が床に落ちていく。
彼が何を望んでいるのかは解っていた。出会い救われた日からずっと見てきたのだから。
これは自身の独り善がりだと理解していた。彼の望んでいることを解っていながら、彼を縛り付けると解っていながら想いを伝えた。
伝えた言葉に嘘偽りなどなかった。







二人は恋人らしいことなど何もしていなかった。
キスも抱きしめ合うことも、手をつなぐことさえしなかった。
天馬は京香にいつもと変わらぬ態度で接する。そこに『特別』というものは何一つ存在しない。
周りの友人と何ら変わらない態度だった。



京香が天馬のことを想うようになったのは、強いて言えば最初からだ。
シードだった自分に道を指し示してくれた。暖かく包み込んでくれるような光だと感じたのだ。
自覚したのはしばらく経った頃でも、意識したのは初めて出会った時だった。


「京香はバカだね」

「そうか?」

「うん。僕から見ればバカだよ」


シュウは目の前にいる大切な友達を優しく見つめ重いため息を吐く。その瞳には悲しみも含まれていた。
彼女は気づいていない。自身の心がどれほど傷つき弱っているのか。
与えるばかりでもらおうとしない。
そんな優しすぎると言っても過言ではない友人を見てシュウは再びため息をつく。


「そんな顔するなよ」

「君がさせてるんだよ」

「……ごめん」

「ほんっとうに京香ってバカだね〜〜〜」


京香は少し頬を膨らませて拗ねるがシュウは笑いながら京香の頭を撫でた。

どうかこの優しい少女が幸せになれますように。

願いが伝わってしまったのか、京香は眉を寄せて辛そうにほほ笑んだ。




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