短編
□君に嘘が必要なくても、私に嘘が必要なのです
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「俺、剣城さんのこと大嫌い」
こんなこともちろん嘘だ。
いつもの俺ならこんな質の悪い嘘は絶対言わない。(冗談は言うけど)
今日はこんな嘘が許される唯一の日。
「俺も」
みんなから見たら意外なんだろうけど、剣城さんはだまされなかった。
だって昨日『明日エイプリルフールだね!』って天馬くん達と話してたし。
だましがいが無くなるからちょっと天馬くんに対して怒りが湧いたけど、今はそんなことどうでもよかった。
「……意味わかって言ってる?」
「当たり前だ、バカ。確認すんな」
どうにも信じられなくて聞いてみたら、みるみるうちに剣城さんの顔が赤くなっていった。
それがすごく可愛くて、ついつい抱きしめたくなる。
時と場合があるから今はやめとくけどね。
「剣城さんは嘘つかないの?」
さっきの俺の『大嫌い』っていう嘘に『俺も』っていう小さい小さい嘘をついたけど、剣城さんが大きな嘘をついたところを俺は見たことがない。
それが少し不思議に思えた。
「俺はさっきので充分だ」
あまり納得のいく答えじゃなかったから何で?と重ねて聞いた。
剣城さんは笑って、でもどこか悲しそうな笑顔でこう言った。
「一生分の大きな嘘、ついちゃったからな」
バカな自分を本気で恨んだ。
天馬くんや目の前にいる本人に、俺はちゃんと彼女の過去を聞いたはずなのに。
まだ悲しそうな笑顔を浮かべてる剣城さんを思いっきり抱きしめた。
「京香のこと大っきらい」
ちゃんと俺のことを理解してくれてるからかな。
京香は嬉しそうに笑って、俺の背中に手を回した。
おわり