捧げもの

□重いものは一緒に持つべき
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今の俺の状況を整理して説明しよう。


「うぅ〜…」

「京香、大丈夫?」


テレビの前でしっかりと俺の腕に抱きついて、寄りかかっている。
その原因は、狩屋から借りたホラー映画のDVDだ。
俺的にはそんなに怖くないけど、京香は涙さえ浮かべていて、相当怖いらしい。

そんなに怖いなら見ない方が……、と思ったけど、抱きつかれるなんて滅多にないから絶対言わない。


「何で天馬は平気なんだ……?」

「京香が怖がりすぎなんだよ」

「そんなこと……、ひゃぁあ!」


いきなり京香が悲鳴を上げたから、テレビの方を見てみるとちょうど恐怖シーンだった。
もろに見てしまったらしく、背中に隠れるような形になってる。
この体制は胸が当たってるから、ちょっと……。

いよいよ映画も終盤にさしかかる。
この映画はホラーだけど、主人公とヒロインのラブストーリーでもある、と狩屋が言っていた。


「天馬ぁ……」

「大丈夫だって。怖くないよ」


ラストは、ヒロインを残して主人公は死んでしまった。
ヒロインを庇って、最期に『幸せだった』と言い残して。

ありきたりな終わり方だと、そう思った。


「終わったよー」

「…………」

「京香?」


映画は終わったのにまだ京香は離れない。
離れてほしいわけじゃないけど、黙ったままでいるのも気になってひょいと顔をのぞいた。
その途端に京香は俺の背中に顔をうずめて、もっと強く抱きついてきた。


「最低の映画だ」


ようやく聞こえた声は、少し震えていて。


「残された奴の、庇われた奴の気持ちなんか全然考えてない」


ああ、彼女は。

重ねてしまったのか。


「何にも……っ、考えてない……!」


幼いころの記憶に、重ねてしまったんだ。

とうとう涙声になってしまった京香を、向き直って正面から抱きしめる。


(まだ、責めてるんだね)


自分自身を、ずっと。

あの映画のヒロインも、自分を責めているんだろうか。
自分を庇ったせいで彼は死んだと、罪悪感に包まれながら。

罪なんて、咎なんてないというのに。


「京香が苦しむことなんてないんだよ」


そう、誰も悪くない。

庇った人間も、庇われた人間も、罪も咎も何もない。
あるのは、それぞれの想いだけだ。


「それでも、自分が悪いと思うなら俺にも分けてほしいんだ」


京香がゆっくりと顔を上げる。
涙で濡れたその目は、不謹慎かもしれないけど、すごく綺麗だった。


「一緒に、前に進めばいいんだよ」


悲しいことも、嬉しいことも一人占めはなし。
全部一緒に分け合えばいい。
重いものも、一緒なら軽くなるから。


「ずーっと一緒にいようね、京香!」


そう言えば、京香は綺麗に綺麗に笑って。


「…うん……!」


頷いてくれた。










優一さん。

京香を助けてくれてありがとう。


神様。

俺達を巡り合わせてくれてありがとう。




俺達は幸せです。











おわり

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