捧げもの
□孤島の中での恋模様
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ゴットエデンに新しくやってきた剣城京介。
僅かな短期間で、俺と同じランクで訓練を受けているシードだ。
単刀直入に言ってしまおう。
俺は剣城のことが好きだ。同じ男同士だがそんなことは関係ないと思ってる。
まぁ、シュウに話したら黒笑で返されたんだが。
訓練が終わったあとのひそかな楽しみが森の散歩だ。
いつも殺伐とした空気の中で呼吸をしているから、森の中では思いっきり深呼吸できる。
剣城と一緒に散歩してみたい、と思うのは異常だろうか。
(俺も大概だな……)
俺のこの気持ちは一目ぼれによるものだ。
訓練中の剣城のプレーを見て、それからこうなった。
単純というか、なんというか、自分自身への感想が最早出てこない。
そんなふうに色々と考えていると、そう遠くない所から声らしきものが聞こえた。
「……! ………だ!!」
声は段々と大きくなってきている。
次に聞こえた声に、心臓が止まったかと思った。
「いやだ!離せ!!」
(この声は、剣城の……!)
そう確信した時にはもうすでに俺は走り始めていた。
全速力で走ったため、周りのツタや雑草が足をかすめて小さな傷が出来ている。
そんな僅かな痛みなどもう感じない。
「剣城!!」
少し開けた場所に、剣城と数人の少年が居た。
その少年というのが俺のチームメイトだったのだが、剣城を囲んで暴行を加えようとしていることは火を見るより明らかだ。
頬に殴られたような痕がある剣城を見て、俺の怒りは頂点に達した。
「白竜……?なんでここに……」
いつもより弱弱しい声が耳に届く。
腹を押さえてることから、腹も殴られたか蹴られたかされたのだろう。
チームメイトの顔がこわばっているのを見る限り、俺はきっと無表情なんだろう。
自分でも驚くほど笑みも、声も出てこない。
人は本当に怒りが頂点に達したとき、感情が全て凍りつくものらしい。
剣城を助けようと歩みを進めれば怯えたような呻き声が聞こえる。
「ま、待ってくれ白竜っ。これは、その……」
うるさい、聞きたくない。
どんな理由があろうと剣城を傷つけた事に変わりはない。
剣城を傷つける奴は、俺が潰す。
俺は無言で、必死に言いわけを探しているチームメイトを殴り飛ばした。
「ひっ!わ、悪かった!もう二度とこんなことしねぇよ!見逃してくれ!」
「黙れ。謝る相手を間違っているだろう。貴様らが剣城にやっていたことを俺が再現してやる」
「う、うそだろ……?」
相手は五人で、先ほど殴り飛ばした奴は声を出す間もなく気絶した。
残るは四人。
こいつら全員に地獄を見せてやる。
もう一人を殴ろうとした腕が誰かに止められた。
後ろを振り向いてみれば剣城が俺の腕を掴んでいる。
「いい、白竜。俺は大丈夫だから……」
「だが……っ」
「大丈夫だ。大丈夫……」
走るような足音が聞こえる。
あいつらが逃げた音だろう。証拠に誰も居なくなっていたのだから。
本当は追いかけてぶっ飛ばしてやりたいが、痛みに顔をゆがめている彼を放っておくわけにはいかない。
「少し我慢しろよ」
「は?……ん?えっ!?」
とにかく手当てをしなければいけないので剣城を抱っこした。
もっと分かりやすく言えば姫抱き状態。
「なにしてんだ、お前!?一人で歩けるから下せ!」
「嫌だ」
「〜〜〜せめておんぶ!」
「嫌だ。おとなしく運ばれろ」
しばらく暴れていたが観念したようでおとなしくなった。
先ほどのことを思い出して、剣城を抱く腕に力がこもる。
明日の訓練で復讐しようと心に決めた。
あの五人は前も新入りを痛めつけたことで問題になっていた。
ようは自分たちが優位に立つためあらゆる手段を使うということ。
しばらく歩いていれば、腕の中の剣城がもぞと動いた。
胸に顔をすり寄せてくる。
「白竜……、ねむ……い……」
「手当ては済ませておいてやる。安心して眠れ」
「ん……、ありがと……」
こうやって無防備な寝顔を俺に見せてくれるということは、少しは気を許してくれているのだろうか。
都合のいい解釈かもしれないが、チャンスはあると思っておこう。
剣城が眠っているのをいいことに、触れるだけのキスを額に落とした。
「好きだ、京介」
次は起きているときに言ってみよう。
どんな顔をするか、楽しみだな。
おわり