頂きもの

□溜め込まないで
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【溜め込まないで 天京】



「じゃあ信介!また明日!」

「うん!バイバイ天馬!」

俺は信介と別れて、一人で歩いていた。いつもならこのあと信介と川岸でサッカーをやるが、信介が今日は用事がはいってしまったらしい。

(どうしよっかなー。サッカーしたいけど、信介いないし…。そうだ!サスケの散歩のときに川岸に行こう!そしたらサスケとサッカー出来る!)

俺はそう思うと急いで木枯らし荘に戻った。木枯らし荘につくと、自分の部屋に行き、ボールとサスケのリードを持って外に出た。
着替えは…ジャージだしこのままでいいよね。

「よしっ!行くよサスケ!」

「バウッ!」

俺はサスケのリードを持って走り出した。目的地はもちろん川岸。

「サスケ!今日は川岸で一緒にサッカーやろうな!」

「バウッ!」

サスケとそんなやり取りをしていると、空が次第に曇ってきた。

(うわっ、一雨きそう。降らないといいけど……。)

そう思った矢先にいきなり、バケツをひっくり返したかのような大量の雨が降ってきた。

「うそ!?サスケ!橋のしたまで走るよ!」

そういって俺とサスケは走るスピードをあげる。やがて川岸と橋が見えてきた。川岸を降りて橋の下に行く。

「うわー……。」

いきなりの雨のせいで、俺のジャージはびしょびしょになってしまった。サスケも体をふって水を飛ばしている。

俺は空を見上げた。いきなり降ってきたのだから、おそらく通り雨だろう。秋ねぇに傘を持ってきてもらおうにも、携帯は家の鞄のなかだ。
仕方ないから俺は雨がやむまで待つことにした。

「バウッ!バウッ!」

「ん?どうしたのサスケ?」

サスケが吠えている方向を見ると、見覚えのある人影が川岸にいた。

「あっ!剣城!」

あの紫色の改造制服。見間違えようがない。傘をさしていないので凄く濡れている。

「サスケ!ちょっと待ってて!」

俺はそう言うと、橋の下から飛び出した。瞬間大量の雨が体に突き刺さる。

「剣城ー!」

俺が名前を呼ぶと、剣城は驚いたようにふりかえった。俺はその顔をみて一瞬動きを止めた。

「え…?」

剣城は泣いていた。雨に濡れていてもわかるほどに。

「え!?ちょっと剣城!どうしたの!?」

俺はそう言って剣城に近付くと、剣城は「な、なんでもない!」と言って俺に背を向けて走り出そうとした。慌てて剣城の腕を掴む。

「待てよ!なんでもなくないだろ!」

「なんでもない!離せ!」

剣城が腕を振りほどこうと暴れる。俺はそれをおさえながらこのままじゃいけないと思い、剣城を橋の下まで引っ張っていった。

「離せって言ってるだろ!ほっといてくれ!」

「ちょっと暴れないでよ!サ、サスケ!」

「バウッ!」(ドン!

「「うわっ!?」」

ズシャ!

「いったー…。サスケ、なにも体当たりしなくたって……。」

「…うっ………ひっく…。」

「ウー…。」

サスケに抗議をしていた俺は、聞こえてきた泣き声に剣城の方を見る。サスケはいつのまにか剣城の隣に座って剣城の顔を顔をのぞきこんでいた。

「剣城……。」

「うっ……うっ……。」

「………。」(ギュッ

「!…な、なにして!」

剣城が俺の腕のなかで暴れる。確かにいきなり抱きつかれたらこうなるだろうな。でも…抱き締めずにはいられなかった。

「……剣城。」

俺が名前を呼ぶと剣城は急に大人しくなった。

「泣きたいときは我慢しなくていいよ?」

「!」

「なにがあったのかは聞かない。だから……辛いこと溜め込まないで。」

「…ごめ……、うっ、うわぁぁぁ!!」

剣城は俺の言葉を合図にしたかのように、俺の胸に顔をうずめて泣き始めた。俺はなにも言わずにただ静かに剣城を抱き締めてた。






「…ひっく………ひっく…。」

「……落ち着いた?」

俺の言葉に剣城はこくりと頷いた。

「…わ…りぃ……ひっく…。もう少し………このままでいてくれ……。」

「うん………。」

よほどのことがあったのだろう。そうでなければ剣城がこんなふうに泣くなんて滅多にないし、甘えることもない。だから今だけは剣城の好きなようにさせてやろうと思った。

「………セカンドチームの人が。」

剣城がいきなり話始めた。俺はおそらく泣いていた理由だろうと思い次の言葉を待った。

「俺がっ…潰した人が……、俺達だって…、自由に…サッカーがやりたいって……泣いてた…。」

「うん…。」

「俺っ!最低だ!」

「…なんで?」

俺がそう言うと、剣城は顔をあげた。その顔は目がはれていて痛々しい。その目からは次から次へと涙が溢れていた。

「俺っ!誰かからなにかを奪うことしかしてない!あの人達からサッカーをうばった!兄さんからだって!なのに……なのになんで俺は……足が動いて…サッカー出来るんだよっ……!」

剣城はそこまでいって、また俺の胸に顔をうずめた。

「……剣城。剣城は奪うことしかしてないなんてことないよ?」

俺の言葉に剣城は首を横にふる。

「いいから聞いて。俺はね、剣城のサッカーをするプレイを見てて、もっとサッカーが好きになったんだ。もっと上手くなりたいって…。これは剣城が与えてくれたことだろ?
それに万能坂中との試合や帝国学園との試合でも助けてくれたじゃんか。」

「!…あれは……。」

「どんな理由だろうと助けてくれたことに変わりはないよ。でしょ?」

俺がそう言うと剣城はまた泣き始めた。先程のように思いきりではなく静かに……。

「なんで……そんな風に言えるんだよ……。俺は…お前のことだって…傷つけたのに……。」

「あぁ、あれ?別に初対面の挨拶がちょっと変わってたってことでいいじゃん。」

あははっと笑ってそう言うと、剣城は「どんだけ前向きなんだよ…。」と呟いていた。その声が少し明るくなっていたことに俺は安心した。

「天馬ー!」

いきなり聞こえてきた声に剣城はびっくりしている。それは俺も例外ではないのだが、声の主が誰かわかったので「はーい!」と返事をした。

「大丈夫だよ剣城。秋ねぇだから。サスケ。秋ねぇ呼んできて。」

雨はほとんど小降りになってきているので、これならサスケを秋ねぇの向かいに行かせても平気だろう。サスケは剣城の顔を一舐めすると、橋の下から走っていった。

「……松風。離してくれないか?」

「え?あっ…うん。」

「……顔洗ってくる。」

剣城はそう言うと、橋の下から出ていった。一、二分もせずに戻ってくる。

「じゃあ……俺帰る。…なんかわるかったな。」

「え?帰るって……。」

今の剣城は俺以上に制服が濡れている。剣城の家がどこにあるかは知らないが、このまま返したら剣城は風邪をひく気がする。

「俺の家に来なよ!タオルくらい貸すから!」

「いいよ。そこまで迷惑かけられないし……。」

「あら?迷惑じゃないわよ?」

「「!!?」」

俺の後ろから聞こえた声に俺達は驚いた。振り返ってみると、秋ねぇがサスケのリードを持って笑いながら立っていた。

「ふふ…ごめんなさい。そんなに驚くと思わなくって。」

「もぅ秋ねぇ〜!」

「あっ、こんにちは。」(ペコリ

「こんにちは。えっ…と、剣城君かしら?天馬からいつも聞いてるわ。」

「え……。」

「ち、ちょっと秋ねぇってば!」

「別にいいじゃないの。それよりも二人ともそんなに濡れて…、風邪ひくわよ?さっ、木枯らし荘に行きましょ。剣城君もいらっしゃい。」

「いえ…。俺はこのまま帰ります。」

「だーめ。大人としてこのままあなたを帰すわけには行きません。それともなにか用事かしら?」

「別に用事はないですけど……。」

「なら決まりよ。タオルとかえの服は貸してあげるから、服が乾くまでうちにいなさい。あっそうだ!よかったら夕食も一緒にどう?」

「そこまで迷惑は…「いいじゃん!それに決定!」勝手に決めるな松風!」

「ふふ…。大丈夫よ剣城君。迷惑どころか大歓迎だから。ねっ?いらっしゃい。」

剣城は戸惑っていたが、秋ねぇの言葉に「じ、じゃあお邪魔させていただきます……。」と、また頭を下げていた。

「じゃあ行こっか!」

「あ、あぁ…。ま、松風。」

「ん?」

「いや……、やっぱりいいや。」

「?へんなのー。まぁいっか!行こっ!」

「あぁ。」

剣城がなにかいいかけたが、表情が柔らかいものだったので、気にしなくてもいいと思って俺は剣城の少し前をあるきだした。
秋ねぇとサスケはもうだいぶ前にいる。
俺は剣城の方を振り返って剣城を急き立てる。剣城も走り出した。俺はまた前を向いて同じように走り出す。

「」

「え?剣城なんかいった?」

「いや。気のせいじゃないか?」

「そうかなー?」

「そうだろ。」

そういって剣城は俺を抜かしていった。

「なっ!?ちょっと待ってよ!」

「やだ。」

「やだって…。もう!剣城ってばー!」

俺は半べそをかきながら剣城を追いかけた。


もう雨はあがり、綺麗な夕日が空を赤く染めている。


(ありがとう松風)

一人の少年の言葉は静かに空へと吸い込まれていった。

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