短編しょうせつ

□一匹狼伐
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『ねぇ、赤林サン? あたしとイイコトしようよ?』

「困ったねぇ。おいちゃん、本命の人居るんだけどなあ」

『だいじょうぶ。数時間後には、あたしを本命の人に変えてあげるからさ』

「全く、最近の子は大胆だねえ」

『なに言ってんの。赤林さんも大胆でしょう?あたしを誘ってさ』






寝室のベッドの上。
彼女は、男に跨り、男が着ていた開襟シャツのボタンを丁寧に外す。






「おいちゃんは誘ってないよ?逆に、誘ったのは祐里奈ちゃんじゃないのかい?」

『あたし?あたし、色気はないはずだよ?』

「はは、あると思うよ?おいちゃん、本命の子がいなかったら絶対に惚れてるさ」

『…』





その男の一言に、女は皺をよせる。
彼女はシャツから手を離すと、男の首に手を回す。




 
『…なんで?あたしの方がいいのに。あたしだったら、赤林さんを幸せにできるのに』

「祐里奈ちゃんには無理だよ。俺を満たせない」

『……あたしの何がダメなの?何が足りないの?ねえ教えてよ。赤林さん』

「何が…うーんそうだねぇ。全部かなぁ。おいちゃんを圧倒できるモノが何もない」

『…そんな酷いこと、言わないでよ。あたしは赤林さんが大好きなんだから』

「御免よ。おいちゃんは、祐里奈ちゃんが大好きじゃねぇんだ」

『……』





彼女はイラついた顔を見せると、ベッドから降り、机からナイフを取り、俺に向ける。
その子の目は、見たことがある。
酷く覚えている。
暗く、哀しげで、真っ赤に充血していた、あの時の目だった。
彼女は、その目から涙を流していた。






「…祐里奈ちゃん」

『あた、あたしだって…!っ…あか、あかばや、…赤林さんが…っす、好きなのよっ…!!』

「……おいちゃんを、どうしたい?」

『…めちゃくちゃにして、あたしのモノにしたい…の』

「その刃物で?」

『……うん』

「じゃあすればいいさ。おいちゃんは別に構わない」

『…え?』





彼女は目を丸くしてこちらを見る。
俺もベッドから降りると、彼女に近づき、俺に向けて構えていたナイフを素手で掴む。




ポタ




血が下に落ちる。
痛くねぇ。
この子のほうが、痛いんだ。
ずっと泣いてんだ。







『…っ!?』





彼女は、俺の手を見て、心配そうにする。
優しいねぇホントに。





「なあ祐里奈ちゃん」

『な……っ…』

「おいちゃんを、本当にめちゃくちゃにしたいのかい?」

『……っ、した、いよ』

「刃物で?」

『………違うの』

「やっぱり?そうだったら、んな顔しねぇもんな」

『………あたしがこの手で、赤林さんを…守ってあげたくて、支えてあげたくて…』

「うん」

『………赤林さんの…っく……本命の人に…っ大好きな人になりたくて…ぇっ……っく…!』

「……そうかい。祐里奈ちゃんじゃなかったら、ホントは川にでも落としてやりたいとこだけど。
 あんたなら話が変わる。…あんた、俺の本命の人の妹だろう?」

『…!!な、んで……』

「あの人から聞いたさ。おいちゃんを好む、おかしな子がいるって。やっと会えたね?」

『…赤林さ、ん……』

「ずっと、こうされたかったんだろ?」





俺は、ナイフを落とすと、祐里奈ちゃんを抱きしめる。




『…あか、ばやし、さん…』

「ごめんな、本当に……。けど、おいちゃんあの人が忘れられねぇんだ…ごめんな」

『……赤林さん……ごめん、いいの…あたしが我侭言ってた…ごめん。もういいの。
 赤林さんに会えるだけでいいよ…ごめんね、痛かったよね…』

「いや…大丈夫だよ。おいちゃんは強いからさ」
 
『…ねえ、お姉ちゃんのドコが良かったの?あたしのほうがイイのにね』

「うーん、全部」

『あはは、あたしの時と違うイイ『全部』だねぇ。』

「そうだねぇ。てことで、どうする?さっきの続きする?」

『え……いいの?』

「いいさ。あの人も許してくれるだろうよ」

『……でも………』

「そんな迷ってると、おいちゃんが喰っちゃうよ?」

『あ、赤林さんったら…///』

「はは、可愛いねえ。照れる姿もお姉さん譲りだなあ……ホント、あの人のこんな姿、見たかったぜ」

『……赤林さん』

「もういいさ忘れて続きしよう?おいちゃん、優しくしないよ」

『……いいよ?赤林さになら何でもされていい』

「可愛いこと言うねぇ。じゃ、夢みようぜ」






そう言って、俺は彼女を押し倒した。
 

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