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□月と太陽
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貴方は私を照らす。
己の存在を確かめるように。


【月と太陽】

この日、長曾我部元親は、安芸・郡山城にいた。
陽の当たる縁側で、んん、と大きく伸びをして庭に下りる。その顔はどこか満足げである。

「これでひと安心、ってトコか?」

ここに赴いたのは、他でもない、中国との和睦・同盟締結の為だった。
織田や豊臣、最近力をつけつつある軍勢が、中国・四国を虎視眈々と狙っている。ここはひとまず休戦し、手を組んだ方が得策─というものだった。
元親は庭を散策しながら、ふと笑みを零す。

─アイツとも、もうやり合わなくて済むしな。

中国の主・毛利元就とは、先の戦で刃を交えた。その生命を奪うことは無かったが、自らの手で傷を負わせた。

─あんなのはもう御免だぜ。

その感覚を思い出したのか、元親は顔を歪める。

「…何をしておる」
歩を止めて、物思いに耽る元親を、不意に引き戻す声。
「あ、あぁ元就か。悪ィ、勝手にうろついて」
気付けばそこは、元就の私室の前だった。彼は縁側に腰を下ろし、目を瞑り日輪の恩恵を授かっていた。
「…構わぬ」
彼にしては珍しく、穏やかな声だった。
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