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□いぬのきもち
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いつもいっしょにいたいのです。

【いぬのきもち】

6時限目が終わり、教室が活気づく。元就はいつものように、自分の後ろで爆睡中の元親を蹴り上げて起こそうとした。
「バカ親起き─」「元親殿ーーーっ!!!」

物凄い勢いで元親に飛び付いたのは、隣のクラスの真田幸村。ぐぇ、と妙な音を出して、元親はもぞもぞと動く。

「…何すんだよ幸村。苦しいじゃねぇか」
軽く抗議しつつも、その顔は笑っている。
「あ、す、済まぬでござる!」
やはり物凄い勢いで後ずさりして小さくなる。

「騒がしいな…何事だ」
行き場を失った右足を下ろし、元就は幸村に問う。
「おお、毛利殿!実は、今日はお二人にお願いがあって…」
「ん?何だぁ?」いつの間にか、帰り支度を整えた元親は、幸村を見上げる。
「駅前の甘味処で、あのジャンボクリームあんみつが、今日に限り半額の2000円なのでござる!」
「うぉっ!マジかよ!!」
狂喜する二人を横目に、元就は小さく溜め息をついた。この二人の甘味好きは尋常ではない。
「某ひとりでは食べきれない故、お二人にも手伝っていただきたい!!」
「あ〜…俺は行きたいけど…元就、どうする?」
元就を振り返り、元親は笑いかける。
「貴様
の好きにすれば良かろう。我は帰るぞ」
そう言うと、二人はしゅんとうなだれた。

が、それも束の間。
「え〜〜冷たいコトいうなよ〜。行こうぜ〜!」「一緒に行きたいでござる!」
二人は口々に誘い、元就の腕や裾、鞄を引っ張る。

─まるで子犬だな。ハスキーと柴犬の。

不意にそう思い、元就は可笑しくなった。

実を言うと、元就も甘いものは嫌いではない。ただ、今日はそんな気分ではない。
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