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□いぬのきもち 2
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どうしてかまってくれないの?

【いぬのきもち 2】

「…つまんねぇの…」
長曾我部元親は口を尖らせて呟いた。
ここ数日、恋人・毛利元就の様子がおかしいのだ。
用事がない日は毎日一緒に下校していた。生徒会役員の元就は学校行事の度に駆り出されるが、この時期は目立った行事は無い筈だ。
なのに。

「…何なんだよ…」
用事がある時は律儀にも元親に朝のうちに伝えていた。それが何も言わずにそそくさと教室を出て行く。

それは良い。
それだけなら良い。

「全っ然構ってくれねぇし…」
休み時間にこちらから話しかけようとしても、席を立ち、ふいといなくなる。

「…俺何かしたかな?」
廊下を歩きながら、避けられる原因を考える元親。しかし、これといって思い当たる事はない。

─もしかして俺、嫌われた?
はた、と立ち止まり元親は考え込む。
こちらに非が無いとすれば、考えられるのはそれしかない。
悲しいかな、人間と云うものは『思い込み』という厄介な機能を持っている。思い込んだが最後、底無し沼の如く抜け出せないのだ。

「…」
目も虚ろに、狭い廊下のど真ん中に佇む元親。他の生徒達は怪訝そうに見やって、窮屈そうにその脇を通り過ぎる。

─嫌だ。
元親は悲しくなった。
こちらが勝手に舞い上がっていただけかもしれないが、嫌いなら嫌いで何故はっきり言わない?話をしたくないほど嫌なのか?

─嫌だ、そんなのは─

「邪魔だ」
うなだれていると、背後から無愛想な声がした。弾かれたように振り返る。
いつも通り仏頂面の元就がいた。
「…元就」
「通行の邪魔だ、どけ」
「…嫌だ」
「何を言う」
─こうなったら。

元親はその場にどっかりと腰を下ろした。
「…どけ」
「嫌だ」
いわゆる『通せんぼ』である。
「…何で構ってくれねぇんだよ!納得出来る理由が聞けるまで、ここは通さねぇ!!」
恐らく本人は至って真剣、且つ凄んでいるつもりだろうが、縋るようなその瞳は潤んでいる。これはまるで─

─いじけた子犬だな。
元就は思った。
小さく溜め息を吐いて、目の前の子犬(少なくとも元就にはそう見える)の耳を引っ張りその場に起たせる。
「「痛でっ!何しやがる?!離せっ!!」
手荒な扱いを受け抗議する元親。元就はしかし抗議を無視し、そのまま歩き出した。
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