文章
□最後の言葉
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また逢える時を待っている。
次の言葉を伝えたくて。
【最後の言葉】
桜並木からこぼれる春の陽射しに目を細め、予感していた。彼が自分を見つけてくれる事を。
この時代に生まれる前は、戦乱の世に生きていた。深手を負い、死に際にやっと彼が来た。遅いぞ─最期なのにそれしか言えなかった。「愛している」と、想いを伝えたかったのに。
彼は約束した。「生まれ変わっても捜し出してやる。次もその次も一緒にいよう」と。あまり彼が泣くから、微笑ってやった。
─泣くな。きっとまた逢えるから─
伝えられないもどかしさ。
意識はそこで途絶えた。
花弁が舞った。視界が桜色に染まり、我に返る。曲がり角から誰か来た。何故か瞳を逸らせなかった。
その瞬間─風が吹いた。
視線に気付いたのか、こちらを見た。その人物は驚いて、そして嬉しそうに笑った。
─彼だった。
待っていた。ずっと。漸く来たか。
「…遅いぞ」
花吹雪の中、脇目も振らずに駆けてくる。前と変わらぬ姿で。
ああ。
この瞬間を待ち焦がれていた。ずっと。
最後の別離の言葉が、最初の出逢いの言葉になった。
今度こそ、想いを。次の言葉を伝えなくては。
《完》
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