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□線香花火
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想いは未だ消えず
胸の奥で燻り続ける

【線香花火】

「…はぁ〜…」
ベッドの上で、長曾我部元親は大きな溜息を吐いた。寝返りを打って、ベッドからだらりとずり落ちる。フローリングの少し冷たい感触が心地良い。

─アイツ、どうしてるかな。

天井を見上げながら思う。今とは違う状況で、『あの日』もこうやって天井を見上げていた。次第に顔が火照っていくのがわかる。

─…逢いたい。アイツに。

もう逢うことのない『アイツ』のことを思い出していた。数週間前の出来事が、まるで昨日のことのように鮮やかに脳裏に蘇る。『アイツ』の声、体温、匂いまでも─否、正確には『思い出す』のではない。『忘れられない』のだ。

「…どーしちまったんだよ、俺は…」

上体を起こし、軽く頭を振る。のろのろと立ち上がり、キッチンへ向かう。殆ど空の冷蔵庫からビールを取り出し、ベランダに出る。何とも言えぬ爽快な音をたて、プルタブが上がる。冷たい喉ごしで気怠さは消えるが、心の奥底のやるせなさが解消された訳ではない。ふと下を見ると、見慣れた一団が歩いて来た。そのうちの一人・伊達政宗が元親に気付き、声をかける。
「Hey元親、んな所で何してんだ?」
「…お前らこそ、雁首揃えて何だよ」
横にいた猿飛佐助、真田幸村が手を振る。
「元親殿を迎えに来たのでござる!」
「はぁ?!何だそりゃ」
「いやー暇してるんじゃないかと思ってね」
「元親、下りて来いよ。Right now!」
口々に誘う三人。軽く溜息を吐いて残りのビールを飲み干した。
「…おうよ。今行く」
突然の誘いに戸惑いながらも、急いで身仕度を調えて部屋を出る。

─あのまま部屋にいるよりはいいか。気分転換になる…アイツのことを考えなくて済むしな。

階段を駆け降りながら元親は思った。
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