OROCHI2夢

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「お前も人の子に魅了されているな」





その言葉に、酒呑童子は少しだけ動きを止めた。










「魅了、か………そうだな」





今まで知らなかった感情や感覚が沸き上がってくるのは、「人間」自体に惹かれているからか、と酒呑童子は自分中で納得した。








「よい事だ」




そう短く呟くと、太公望は酒呑童子から視線を外し、歩き始めた。








「離れ難い存在になると覚悟せねばな」







縁側を歩きながら、背を向けたまま言うと、太公望は左手を少し上げて簡単に手を振った。










小さくなっていく太公望の後ろ姿を眺める酒呑童子の頭の中に、『離れ難い存在』という言葉が残る。



自分にもそう思える存在が現れるだろうか、とぼんやり考えた時、葵の笑顔が脳裏に浮かんだ。
記憶を持たない自分がどんな者であっても、願わくば傍にいてくれれば…と思った、葵の姿。



この淡い想いが、この先どう変化するかはまだ分からない。










やがて太公望の姿が見えなくなると、酒呑童子は疑問を振り払うようにまた頭を掻いて、元来た道を歩き始めた。















──────────




ここのところ、戦は起こっていない。


この後特に予定のない酒呑童子は、何をしようかと考えながら歩いていた。


鍛練をするにしても、一人ではあまりやる気が出ず、だからといって酒呑童子の相手になるような者はなかなかいない。


ふと、城の外で衝車や投石器などの兵器を作っていると聞いた事があるのを思い出した酒呑童子は、手伝いに行こうかと歩を進めた。


恐れられるかもしれないが、と思いながら歩いている途中、そういえば葵はどうしているのだろう、と考えた。




城の外へ出る前に、会いに行こうか。

会って何か用があるわけではないが、何故か気になった。































──────





部屋に行ったが葵の姿はない。
城の中で他に葵が行きそうな場所も回ったが、その姿はなかった。






「どした?誰か探してんのか?」



キョロキョロと辺りを見回していると、後ろから司馬昭の声が聞こえ、酒呑童子は振り返った。






「葵の姿が見当たらない」


「あぁ、葵なら薬草採りに行くとかって話してたな」


「そうか………」




あっさり返ってきた答えに、酒呑童子は少しだけ肩を落とした。











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