OROCHI2夢
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「ま、さらに言うと愛だの恋だのってとこまで……………これは自分で気付くほうがいいか」
おそらく酒呑童子の中で“葵”という存在は“愛しい”存在になっているのだろうが、司馬昭はあえてそれを教えなかった。
教えなくても自ら気付くだろう。それも、そう遠くない未来で。
「葵にうまく伝えられなかった……こんな感情は初めてで、どう伝えればいいか分からずに………」
もどかしさを感じていた、と酒呑童子はこぼした。
「だったら早く伝えないとな。幸せだ、って。あぁでも今葵出掛けてんだよな」
帰ってくるまで我慢しないとなーと、司馬昭は面白がった口調で楽しそうに言う。
「…………待ち遠しいな」
しかし酒呑童子はそう言うものの急いた様子はあまり無く、むしろ清々しい表情で空を見上げた。
青く透き通った晴天。
葵が帰ってきたら、上手く伝えられるだろうか。
幸せだと、嬉しいと伝えよう。さらに感謝の意も添えて。
そして、これから先も───────────
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晴天を作っていた太陽は山に隠れてしまい、漏れだした橙の光が空をうっすらと赤らめる頃。
「――――――葵!」
採ってきた薬草を薬剤室へ置いた後、自室へ続く廊下を歩いていた時に葵は不意に後ろから名前を呼ばれた。
「酒呑様」
振り返ると少し離れた所に酒呑童子がいて、葵が振り返ると同時に小走りで葵のすぐ傍に来た。
「どうされました?」
急いでいるようなその様子を不思議に思った葵は、酒呑童子を見上げて尋ねた。
「――――――私は無知だ」
葵の問いかけには答えず、酒呑童子は話し始めた。
「自分自身の事さえ、まだ何も分からない。そんな状態で、この気持ちをどう言葉にすればいいのか、あの時はまだ分からなかった」
酒呑童子の言葉を、葵は頭に疑問符を浮かべつつも静かに聞く。
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