OROCHI2夢
□プロローグ
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─────だが、泣く時間は、すぐに終わりを迎えた。
「人間がいたぞーーーーーー!!!」
どこからか、大きな声が響いた。
その後に、地鳴りのような低い喚声が上がる。
「殺せーーーーー!!」
「逃がすな!!」
徐々に大きくなるその喚声に、私は体を震わせて周りを見渡す事しかできない。
そしてふと背後を振り向くと、まっすぐ私へ向かって駆けてくる──────────人、ではないであろう群れがあった。
それを見た瞬間、今まで呆然として動かなかった体や足に、鞭で打たれたかのような衝撃が走り、私はすぐさま立ち上がり、また薬箱を抱えて駆け出した。
不自然なほどに青白い肌に、尖った耳。
目に映った“人ではないであろう存在”は、ただ恐怖でしかない。
待て、と叫びながら追いかけてくるその群れは、明らかに私を狙っている。
なぜ私なのか。あの群れは一体何なのか。
わけの分からない事しか起こらない。
なぜ私がこんな目に遭わなければならないのか、この状況になれば誰でも思うだろう。
しかし本当に、理由も原因も分からない。
荒れ野をひたすら駆けていると、私はいつの間にか木が生い茂った森の中に迷い込んでいた。
無造作に伸びた木々が、時折頬や手を掠め、着物ごと体に傷をつけていくが、立ち止まるわけにはいかない。森に入ってもなお、群れは私を追いかけている。
「────────ひゃ、ぁッ!!」
道などない森の中を、まともに前も見ずただ必死に逃げていたその時、足がずるりと滑った。
「あ、あぁぁぁッ!!」
そこは、崖。
どれほどの高さかは分からないが、私は斜面を滑り落ち、最終的にごろり、と地面に放り出された。
これでしばらく、私の姿を見失ったであろうあの追っ手はこないだろう。
だが、私自身はどうすればいいのだろう。
ズキン、とした痛みを全身に感じながら、私は倒れたままぼーっと考えた。
─────ここで、死んでまうのかな……
こんな、訳のわからない状況で。
こんな、訳のわからない土地で。
嫌だな、と苦笑いを浮かべると、自然と涙が流れた。
箱の蓋が開いてしまい、手の先で散らばっている薬や包帯を見ると、なぜか余計に涙が溢れた。
────────もう、故郷には戻れないのかな…
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