OROCHI2夢

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それはまだ、二人の想いが通じ合う前のお話─────────。













先の戦は、力と数で押してくる妖魔軍に対して、力と策略で押す討伐軍が一歩上回り、無事討伐軍の勝利となった。


今夜はその祝宴が開かれている。






「皆しっかり飲んでおるかー!!」

「ほれ、もっと飲め飲め!」




あちこちですでに出来上がった男達が騒いでいる声が聞こえる。

戦に勝った嬉しさや安心感からか、自然と酒が進み、騒がしくなるのは誰しもの想定内。


広い宴会場ではそれぞれが熱く語り合ったり舞が披露されたりと、皆思い思いに宴を楽しんでいた。




そんな中、酒呑童子は側に酒樽を置いて一人で呑んでいた。

先ほどまでは司馬昭と話しながらだったが、王元姫や司馬師達に引っ張られて別の所へ行ってしまった。

太公望はそもそもこの宴に来ていない。どうやら酒が苦手らしい。




まだ討伐軍に加わってそれほど日が経っていない上に酒呑童子は元来落ち着いた性分なせいで、他に酒の相手をしてくれる者はまだ少ない。

酒に強い者は多くいても、酒呑童子の周りに集まるという状況にはならず、酒呑童子自身も、まだ自分がこの軍の者に馴染めていない事は本能的に気付いていて、寄っていく気にはならなかった。





それでも、世の中には「物好き」がいるもので。









「酒呑様っ」



名を呼ばれると同時に、視界に女の足元が映った。




「酒呑様、お酒は進んでいますか?」



酒呑童子がふと顔を上げると、声の主はふわりとした笑みを浮かべ、酒呑童子の右隣に座った。







「…………葵」


「熱燗を用意してきたんです。酒呑様のお口に合えばいいんですが…」







葵、と呼ばれたその娘は、酒呑童子に何一つ臆する事なく隣で笑っている。


葵は酒呑童子が討伐軍に来た頃に傷の手当てをして以来、何度か酒呑童子の世話を焼いている。

出会った当初は、鬼である酒呑童子を多少恐れながらもそう見られまいと強がっていた葵だが、酒呑童子に自分の考えや思いを伝えて以降、酒呑童子から距離を置く事はなかった。

酒呑童子にとってはそれがただ嬉しく、自分に対して笑顔を見せる葵に、自然と安心感や温もりを感じている。



そして今も、葵が側に来てくれた事が嬉しい。

本人はまだ“嬉しい”という感情を分かっていないものの、心が温まる感覚は分かる。






「お酒を燗のまま温めたもので、とても体がぬくもりますよ」



そっと徳利を持って、葵は酒呑童子が持っている小ぶりの盃に注ごうとした。

が、酒呑童子は葵を見つめたまま動かない。





「酒呑様?」


視線に気付いた葵が酒呑童子の名を呼ぶと、酒呑童子は目を細め、至極嬉しそうな笑顔を浮かべる。




「………何でもない。呑んでみよう」




葵は不思議そうに少し首を傾げたが、酒呑童子が盃を差し出すとそこに静かに酒を注いだ。




「……いかがでしょう?」


熱い酒に慣れない酒呑童子が少しずつ口にするのを見て、葵は心配気に尋ねる。




「ん、うまいな」


「ほんとですか!よかったー」


盃から口を離し、微笑む酒呑童子を見て葵は表情と声を明るくした。









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