OROCHI2夢
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「葵、風邪を引いて寝込んでるって…」
「まぁ…大丈夫でしょうか。何か栄養のある物を持っていきましょう」
厠からの帰り、廊下を歩いている酒呑童子の視線の先で王元姫とかぐやが慌ただしく話をし、その会話は酒呑童子の耳にも届いた。
話の内容は、葵が風邪を引いたというもの。
自分自身は風邪というものを引いた事はないが、聞いた所によると体が怠くなったり頭が痛くなったり吐き気がしたりと、なかなか大変な事らしいという情報だけは、酒呑童子も手にしていた。
そんな状態だとしたら葵は大丈夫なのだろうか、と考えていると、酒呑童子の足は自然と葵の部屋の方向へと向かっていた。
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「……………酒呑様?」
静かに障子を開け、中を覗くと、葵は上半身を起こして頭をおさえていた。
が、すぐに酒呑童子の気配に気付き、顔を上げてその名を呼んだ。
「風邪を引いたと耳にしたので来てみたが………起きていて、いいのか」
風邪を引いた時はおとなしく寝ているのが一番だと聞いた。
そう言いながら、酒呑童子は部屋に入り布団のそばに腰をおろす。
「酒呑様………あまり近寄るとうつってしまいますから……」
葵は酒呑童子を避けるように身を捩り、口をおさえてゴホッ、とひとつ咳をもらす。
「太公望に……お前は風邪とは無縁な気がすると言われた事がある」
「…ふふ、確かに……酒呑様は病の類いには強そうですね」
思い出しながらそう言うと、葵は酒呑童子を向いてふにゃりと笑ってみせた。
しかし。
「ッ!!」
「葵?」
笑った拍子に頭が痛んだのか、葵の笑顔はすぐに苦しい表情に変わった。
「………葵……大丈夫……ではないな。まだ…痛むか…?」
「……………っ……」
どうすればいいか分からず、つらそうに体を強張らせる葵の頭をそっと撫でていると、しばらくして葵はゆっくりと酒呑童子に視線を向けた。
「…酒呑様…………」
「っ、すまない………余計痛むか………」
撫でていては駄目か、と思い酒呑童子は慌てて手を離したが、その手を追うように葵の小さな手がそっと触れた。
「いいえ……心地好いのです」
また、葵が柔らかい笑みを見せる。
風邪のせいなのか、いつもとは違うその溶けるような笑みに、酒呑童子は鼓動が少し速くなるのが分かった。
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