OROCHI2夢

□プロローグ
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いつもと変わりない一日を、過ごすはずだった。


しかし、“非日常”はあまりに突然訪れて───────。














プロローグ












まだ幼い頃に、戦から派生した混乱による村の急襲で親を亡くした私は、親の知り合いである薬師の夫婦に引き取られて育った。

父・母共にこの夫婦や夫婦が作った薬の世話になり、私自身も怪我をした際などにはよく二人のもとへ行っていた。


夫婦には子供がいないためか、私の事を本当の娘のように可愛がって育ててくれ、私は自然と二人の手伝いをするようになって薬の知識を得、調合などもできるようになった。


そうして、私は薬を売りに行ったり、医師のもとへ届けたりと、忙しいながらも温かい人たちに囲まれて穏やかな生活を送っている。























───────今日も、世話になっている医師の診療所へ薬を届けに行っていた。




「葵ちゃん、いつもご苦労ね」


「いえ、このくらい!奥さんもお忙しいでしょうが、お体には気を付けてくださいね」




最近は流行り病が広まっているらしく、お医者様は毎日患者さんに追われ、それを手伝う奥さんも少し疲れた表情をしている。





「では、また来ます!」



いつも薬を入れて持ち歩いている薬箱から流行り病に効く薬を渡し、お代を受け取って私は診療所を後にした。



予定での今日の仕事はこれで終わりなので、家に戻り、量の少なくなった薬を増やすために薬草を調合しよう、と考えながら家路を急いだ。












だが、ふと見上げた空の色が、おかしい。







視界の半分には、青空が広がっている。

しかしもう半分は──────空の色としてはあまりにも禍々しい色なのだ。





視線を動かし、私はその“妙な色の空”だけを視界に収めた。


一ヵ所、渦を巻く中心部のような所があり、その回りは濃い緑色のような、だが青空との境界線は夕焼けのような赤みを帯びている。


何とも言えない恐怖が、全身を駆け抜けた。





しかしふと次の瞬間、私の隣を歩いていった女性が明るい声で、「今日は良い天気ね」と、手を繋いだ子どもに言ったのが耳に届いた。


危機感や恐怖など何も感じられないその口調と言葉に、私は思わず視線をそちらに移した。

子どもは空を見上げ、楽しそうに笑っている。

見上げている方向は、私と同じなのに。


この子にはあの空が見えていないのだろうか。親であろう女性にも。












まさか、と思い私はバッと周りの人を見渡した。

まだ陽は落ちていない、明るい時間帯。町を行き来する人は多いが、予想通り、あの妙な空に疑問を抱いている人などいない。

それどころか、そんな風に空を見ている人さえいないのだ。








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