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□独占欲の僕と破壊力の君
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それは、清十郎様と共に納品に行った時の事。


清十郎様は何やらお店の人と話し込んでいる。しばらく隣で待っていたが、なかなか会話が途切れそうに無いので少し離れた所にある小物屋の商品を眺めていた。







綺麗な簪や帯留めに見入っていると、不意に後ろから声を掛けられた。












「道を教えてほしいんです」








振り向くとそこには、にこやかな笑顔を浮かべた若い男の人が二人立っていた。




尋ねられた場所はよく知っているお店だったので、説明はすぐに終わった。










「このあたりに住んでるんですか?」






道案内が終わり、二人はお礼を言うと、すぐにその店に向かうと思っていた私の予想に反し、この二人は私との会話を続けようと、唐突な話題を持ち掛けてきた。










「…そう、ですね」






深く聞かれると厄介なので、笑ってごまかし、適当に受け流しておく。




しかしその後も、なかなか二人はこの場を離れようとしない。



かわいいですね、などとお世辞らしい事を言われても受け流し、そろそろ本格的に面倒になってきたのでどうにかこの二人から逃げようと思っていると、









「簪、傾いてますよ」







声をかけてきた男の人の手が伸び、私の髪と簪に触れた。










「あ、すみません」






男の人を見ると、相変わらず笑顔を浮かべている。しかし、何となく髪に触れられたのが嫌だった。


しかしそれ以前に、簪が傾いた状態で小物屋の商品を見ていたのかと思うと何だか恥ずかしくて、少し頬が赤くなってしまう。









「とても綺麗な髪ですねぇ」







なんて、またお世辞だと分かりきった事を言われ、ここから離れようとした時。




















「…………何をしてる」








聞き慣れた声がしたと思うと、すぐ横に清十郎様が立っていた。












「清十郎さ」


「帰るぞ」






いつの間にか店主との話が終わったのだろう、清十郎様は私の手を掴むと引っ張って歩き出した。
















「ありがとうございます。どうやってあの人達から逃げる、困ってて」






少し人混みを抜けた所で清十郎様に声をかけたが、返事が返ってこない。









「…清十郎様…………?」











私の方を振り替える様子も無い。表情は伺えないが、怒っているのだろうか。
清十郎様の周りに漂う雰囲気は、声すらかけ辛い物だった。
























「清十郎様………」






周りにはすっかり人がいなくなり、いつも通り山へ入る道の途中、私は重い沈黙を破って声をかけた。









しかし、やはり返事は返ってこない。




















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