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□その涙色に花束を
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君はいつも、花のような君でいて
『その涙色に花束を』
「――――兼続様?いい加減お休みになった方が……………」
辺りは漆黒の闇に包まれ、降り注ぐのは月光、聞こえるのは涼しげな虫の音だけになった時間帯、皆は寝ているというのに兼続様は明々と火を灯して書物に向き合っていた。
「――あぁ、これが終わればすぐに寝る。先に寝ていてくれ」
様子を見に来るといつもこう。
兵法書か何なのか私にはさっぱり理解できない書物を読み漁ったり書き写したり、『これが終われば』などと言っているがたいてい終わるのは明け方過ぎなのだ。
「どうせまた気付けば明け方という結果なのでしょう?」
寝所との仕切りになっている襖を越えて兼続様のいる部屋に入る。
「はは、そうかもしれんな。だからお前は先に寝ていればいい」
あぁ、この人は私の気持ちを汲み取るのがどうも下手なのだろうか。
というよりも、兵法だの何だのという難しいものは容易に理解するのに、恋愛事になるとどうやらこちらの気持ちに気付く事もない、鈍感な人になるようだ。
「嫌です」
静寂の中での私の声はとても響いて聞こえた。
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