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□絡みつく君の全て
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『絡みつく君の全て』
「―――――清正様!」
辺りは闇に覆われ、月明かりと微かな風の音が支配する夜。
部屋で一人、書物に目を通していた私のもとに、待ち焦がれていた人が姿を現した。
「もう秀吉様へのご報告は終わったんですか?」
「あぁ」
しばらくの間、秀吉様の使いで城を離れていた清正様はその報告を済ませ、私の部屋に来た。
「正則様が寂しがってましたよ。清正様がいないとつまらないって」
当初は正則様も一緒に行くと申し出たが、清正様はその申し出をうまくかわし、正則様は結局城に残ることになったのだ。
「たまにはあいつから離れたくもなる」
「あははッ、それを聞いたら正則様悲しみますよ」
清正様の言葉に、思わず笑みがこぼれる。
それからしばらくは他愛もない話を続けた。
「――――――お前に、見せたい物があるんだ」
清正様が唐突にこう切り出したのは、途中で立ち寄った京の街の話をしている時だった。
「見せたい物?」
何ですか?と尋ねたが清正様はこの場では答えてくれず、私は清正様に連れられて清正様の屋敷へと向かった。
「……お前に、似合うだろうと思って」
部屋に着き、清正様が襖を開けると中には美しい着物と、それに合わせた簪などの小物が並んでいた。
「私、に………?」
とくん、と胸が高鳴る私の隣で、清正様は少し照れ臭そうに頭を掻いている。
「……お前以外に、こんな物を贈る相手はいないだろ」
そう言いながら、着物を手にとって私に見せてくれた。
「京の街でたまたま見つけただけだ。お前、こういう柄好きだろ?」
清正様からの初めての贈り物。
それよりも、私にとっては
『お前に似合うだろうと思って』
『こういう柄好きだろ?』
その言葉が、嬉しかった。
たまたま見つけたと言っているが、少しでも私の事を考えてくれたという事が、嬉しい。
遠く離れていても、貴方の中に、『私』が存在している―――それが、とてつもなく幸せで。
「ありがとうございます………!すごく、素敵です!」
手渡されたその着物を、胸元できゅっと抱き締める。
「一生大切にします!宝物です!」
「大袈裟だな」
「だって……本当に嬉しいんです!」
満面の笑顔を清正様に向けると、私につられたのか、清正様も笑顔を向けてくれた。
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