拍手文

□絡みつく君の全て
1ページ/7ページ






『絡みつく君の全て』


















「―――――清正様!」




辺りは闇に覆われ、月明かりと微かな風の音が支配する夜。

部屋で一人、書物に目を通していた私のもとに、待ち焦がれていた人が姿を現した。







「もう秀吉様へのご報告は終わったんですか?」


「あぁ」




しばらくの間、秀吉様の使いで城を離れていた清正様はその報告を済ませ、私の部屋に来た。







「正則様が寂しがってましたよ。清正様がいないとつまらないって」



当初は正則様も一緒に行くと申し出たが、清正様はその申し出をうまくかわし、正則様は結局城に残ることになったのだ。





「たまにはあいつから離れたくもなる」


「あははッ、それを聞いたら正則様悲しみますよ」




清正様の言葉に、思わず笑みがこぼれる。

それからしばらくは他愛もない話を続けた。















「――――――お前に、見せたい物があるんだ」




清正様が唐突にこう切り出したのは、途中で立ち寄った京の街の話をしている時だった。







「見せたい物?」





何ですか?と尋ねたが清正様はこの場では答えてくれず、私は清正様に連れられて清正様の屋敷へと向かった。






















「……お前に、似合うだろうと思って」




部屋に着き、清正様が襖を開けると中には美しい着物と、それに合わせた簪などの小物が並んでいた。





「私、に………?」



とくん、と胸が高鳴る私の隣で、清正様は少し照れ臭そうに頭を掻いている。






「……お前以外に、こんな物を贈る相手はいないだろ」




そう言いながら、着物を手にとって私に見せてくれた。








「京の街でたまたま見つけただけだ。お前、こういう柄好きだろ?」







清正様からの初めての贈り物。


それよりも、私にとっては








『お前に似合うだろうと思って』
『こういう柄好きだろ?』




その言葉が、嬉しかった。
たまたま見つけたと言っているが、少しでも私の事を考えてくれたという事が、嬉しい。

遠く離れていても、貴方の中に、『私』が存在している―――それが、とてつもなく幸せで。











「ありがとうございます………!すごく、素敵です!」





手渡されたその着物を、胸元できゅっと抱き締める。





「一生大切にします!宝物です!」


「大袈裟だな」


「だって……本当に嬉しいんです!」






満面の笑顔を清正様に向けると、私につられたのか、清正様も笑顔を向けてくれた。













.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ