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□Refrain
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『Refrain』
――――――今日の満月は、いつもより明るい光を放っている。
眠れない夜。自分でも、何故眠れないのかよく分からないが、とにかく目が冴えてどうしようもない。
小さな窓から降り注ぐ月光は、どこか冷たい印象を与えている。
眠れないのはこの月光のせいなのかもしれない、などと何の根拠も無い事をふと考えたが、それでは月が不憫だという結論に至った。
外の空気を吸おうと、庭を臨む廊下に出ると一層、月から降り注ぐ光が強く感じた。
(………………元就様は、まだ……)
元就様が籠もっている部屋にはまだ薄く灯りがついている。
今日は遅くまで物書きや読書をするから先に休んでてくれと言われ、私は一人の部屋で横になっていた。
(“今日は”じゃなくて“今日も”、なのに…………)
ここの所、元就様は本で溢れかえった部屋に籠もる事が多くなった。
昨日も、一昨日も、その前も、その前の前も。………私は一人の夜を過ごしていた。
(元就様らしい、んだけど……)
廊下の縁に座り込み、月を見上げながらぼんやりと考える。
元々書物を読み書きするのが好きという性分に加え最近は、一度退いたはずの戦にも駆り出されている。
その外見や雰囲気、口調からは全く想像のつかない『稀代の謀将』さんは、戦の策も練らなければならないのだろう。
だから余計に最近は忙しいんだ…………と、分かってはいるのだが。
元就様にとっての、『私』という存在はいったいどれほどの大きさなのだろう。
それぞれ別々に過ごす夜、元就様の中に『私』はいない気がする。
月を見上げて、ため息を一つ。
集中すると周りが見えなくなる性格だから仕方ないけれど、それでこそ元就様でもあるけれど――…………
少しだけ眉間に皺を寄せて、きゅっと自分の体を抱き締めた。
きっと『私』は元就様にとって、居ても居なくても同じ存在なんじゃないかと思った瞬間、頭上から降り注ぐ月の光が一層、冷たく感じた。
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