Dream!
□You're Genius cat!
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『You're Genius cat!』
「――――――……就様、元就様」
手を伸ばせば届く距離。
すぐ後ろで名前を呼んでいるのに呼ばれている本人は書物とにらめっこしたまま一向に振り向こうとしない。
膝の上で心地良さそうに寝ている猫を撫でる手は動いているため、眠ってはいないだろう。
これだけ近くから呼んでいるというのに振り向かないとなると、集中しすぎているのではなく聞こえているのに無視されているんじゃないかとさえ思えてくる。
部屋中にうず高く積み上げられた大量の本を見て、私にとっての敵はこの本か、などと思いながら小さなため息をこぼした後、一呼吸置き、スゥ、と息を吸った。
「元就様!!!」
「ッ!!」
そして、元就様の耳元で思い切り叫んでやった。
さぞかし驚いたのだろう、元就様の体が電流でも走ったかのようにビクンと大きく震えた。
寝ていた猫も驚いて目を開けたが、動こうとはしないようだ。
「な、何だい葵…………そんな大声で人を呼ぶもんじゃないよ……鼓膜が破れるかと思ったじゃないか」
左耳のすぐそばで叫んだせいで左耳はまだいまいち正常な感覚を取り戻していないのか、元就様は左耳を押さえながら私を見た。
今まで散々名前を呼んでいたというのに、やはり聞こえていなかったようだ。
「さっきからず〜っと名前呼んでましたけど、元就様が無視するからじゃないですか!第一、私がここに居るのさえ気付いてなかったでしょう?」
ふてくされながらそう言う私とは対照的に、元就様はいつも通りのぽややんとした笑顔を浮かべながらも少しバツが悪そうに、あー……と呟きながら頭をぽりぽりと掻いている。
「すまないね、本を読んでいる間はどうも周りが見えなくなるから」
苦笑しながら言うその姿と雰囲気に、私は文句を言う気も無くなり、またため息をこぼして肩を落とした。
このぽややんとした笑顔に、上手く丸め込まれている気がしてならないが。
「はぁ………もういいです。輝元様から頼まれて書簡を預かってきただけですし…………」
机の上に書簡を置き、ちゃんと読んでくださいね、と念を押すと元就様は小さくまた、すまないねと言った。
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