Dream!

□いらない言葉
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あの人はいつもそう、戦場に一番乗りで。

今日もまた、傷を負う事も気にせず敵陣を突っ切って行くのだ。











「またこんなに怪我をして!楽進様は本当に無茶をするのがお好きですね!」



普段より少し荒々しい口調で、葵は皮肉めいた言葉を早口に言った。
目の前にいる楽進の腕や脚にできた傷に薬を塗り、包帯を巻きながら小言を言う葵に、楽進は申し訳なさそうにうつむいて身を小さくしている。






「私は…無茶をしているつもりではないのですが…」


「ではなぜこんなに傷を負って帰ってこられるんですか!それも毎回!」



相変わらず語尾を強めた言い方でまくし立てる葵に、楽進は少し気圧されていた。



「私は功を立てる事しかできないので……」


「それにしたって毎回なんてあんまりです!功を立てる以前に、ご自分の身を案じていただかないと意味がないでしょう?猪武者じゃあるまいし……」



眉を寄せ、しかめっ面でどこか呆れたように言う葵をちらりと見て、楽進はふと笑みを浮かべる。



「猪武者で良いのです。私が捨て駒となれば、他の皆さんが楽になるわけですし」



そう言ってお人好しな笑顔を見せた瞬間、葵の手が止まった。




「……楽進様、本気で言ってます?」


「え?はい……」



急に葵の雰囲気が変わった事を、さすがに楽進も気付いた。
きっ、と普段見せない鋭い目付きで自分を睨むように見据える葵に、楽進の身体が強張る。
と同時に、葵の手が楽進の顔へと向かってきた。



「………っ…葵、殿?」


ぺち、と軽い音を立てて葵の手のひらが楽進の頬を叩く。
痛むほどのものではないが、葵のその行動の意図が掴めない楽進はきょとんとした表情で葵を見た。

すると、自分とは対照的に葵はつらそうな表情をしているのが目に入る。







「そんな事を言う楽進様なんて、嫌いです」



つらそうに、苦しそうに言う葵は、傷口に巻いていた包帯をわざと強めにぎゅっと結んで、いそいそと薬などを片付けだす。



「葵殿……?」


「楽進様は、何も分かってないんですね。ご自分が軍にとって、皆にとって大切な存在である事も、捨て駒になっていい人など一人もいないという事も」



先ほどまでとは違う、どこか悲しそうな様子の葵に、楽進はどうすればいいか分からず、適当な言葉も出てこない。




「楽進様が捨て駒となってその命を落とされでもしたら、皆が悲しみます。少なくとも…私は、悲しい」



楽進からは目を反らして、葵は囁くようにそう溢した。




「ですから、ご自分の事を捨て駒だなんて言わないでください。思わないでください」



反らしていた目線を楽進の瞳に戻し、葵はまだ少しつらそうではあるがはっきりと、楽進を見据えて言った。







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