Undaily!
□第14話
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「よし!幸村、髪乾かそっか!」
清正を見送ってから、髪を乾かすためにドライヤーのところへ幸村を呼んだ。
「何だ葵、俺の時は自分から声など掛けずに散々嫌がっていたというのに」
「元親は別なのー何されるか分かんないから」
「ふ、ひどい言われようだな」
元親とそんな事を言い合っていると、苦笑いを浮かべた幸村がやって来た。
「じゃあここ座って。そんなに時間かからないから」
「よ、よろしくお願い致します」
「そんなに堅くならなくていいのに。幸村らしいけど」
「そ、そうですか?」
緊張しているのか何なのかよくわからないが、正座してピンと背筋を伸ばす幸村の姿が何だか可笑しくてつい笑ってしまった。
「そうだ、幸村」
髪を乾かしている途中、ドライヤーの音の中でも聞こえる大きさの声で幸村に話し掛けた。
「何でしょうか?」
相変わらず背筋を伸ばしたままの幸村が返事をした。
「私の事、『葵殿』って呼ぶけど………呼び捨てでいいよ」
少し気になっていた事を話す。
「しかし………」
「いいのいいの、私は気にしないから。三成達にも『殿』付けだから私だけ呼び捨てっていうのは難しいかもしれないけど………私、あまりそういうの慣れてなくて」
少し苦笑して、そう言った。
現代の人間ならほとんどの人が『殿』付けで呼ばれるのなんて慣れていないと思うのだよ。
「それに、敬語じゃなくていいし。………あ、でも幸村は全員に敬語だから……私と話す時だけ喋り方を変えるっていうほうが難しいか」
幸村が敬語を使わずに話す相手って少ないな……と思っていると、幸村が小さい声で、そうですねと呟いた。
「じゃあ名前だけでも、ね」
鏡越しに視線を合わせて、笑いかけた。
「はい。今からすぐに…というのは難しいですが……」
「ん、徐々にでいいよ」
少し、はにかむような表情を浮かべて幸村は答えた。
普段相手を呼び捨てにしない幸村だから、気恥ずかしいという思いもあるんだろう。
「あぁそれとね、何かあったら何でも言ってね。幸村って優しくて、不満があっても我慢して言いそうにないから」
硬めの髪に指を通して梳きながら何気なくそう言った。
ほんと、幸村って怒りもしないイメージだから逆に心配だ。我慢されてもそれはそれで大変なんだ。
「…………はい。ありがとうございます」
幸村の表情は、なんだかとても穏やかだった。
「優しいのは葵殿……いえ、葵………ですよ」
咄嗟に私の名を呼び直した幸村は少し頬が赤くなっていて、私まで照れてしまった。
「や、やだな幸村!幸村が照れると私まで恥ずかしいよ」
「も、申し訳ありませぬ!」
幸村の背筋が、さらにピン、と伸びた。
それを見て私は思わず笑ってしまい、照れていた幸村も一緒になって笑った。
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