気づかないようにと。
わたしは何も気づいてなどいない。
―そうずっと、心に言い聞かせてた。
気づかないふりをしていた。
多分、彼と同じくらいあたしも驚いていると思う。
彼だと認識した時には、もう視界なんて見えてなかった。
あたしは彼をその手で掴んで放さなかった。
自分の行動が分からない。
気づいた時には既に、
彼に、縋り付いて泣いていた。
慰められたり、
優しい言葉をかけられたり、
頭を撫でられたり、
されるわけでもなければ、
そんなことすら求めてなどいないというのに。
そこいたのは、
酷く安堵している自分だった。
落ち着きを手に入れることが、
安心に気づいてしまうことが、
こんなにも恐ろしいことだと知るのは、
後にも先にも、
きっと、
これっきり。
恐ろしくて、恐ろしくて、
あたしはひたすら怯えるだけ。
+ + + + + + + +
まさに、赦されない『 』です。