短編集

□赤い爪痕
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「もう仕事なんて行きたくないな」

とき子さんと初めて出会ったとき、とき子さんはブランコをこぎながら空に向かってそんなことを言っていた。

「お仕事嫌いなの?」

私がそう尋ねると、とき子さんはクルリと私の方を向いてニッコリ微笑むと地面を蹴って勢い良くブランコをこいだ。

「大っっ嫌い! みーんな嫌い嫌ーいっ」
スーツを着た大人のお姉さんが、子供のようにケラケラと笑うその光景がなんだかおかしくて、私も笑いながら隣りのブランコに座った。

「君、何歳なの?」

「10歳」

「うわあ…ピッチピチだねー。羨まし」



『女はピチピチを過ぎたらもう女じゃなくなっちゃう』

とき子さんは変な言葉をたくさん教えてくれた。
『ハゲデブインポおやじ』とか『更年期真っ盛りババァ』とか、意味がわからない所はあるけど凄く面白くて、私はとき子さんが大好きになった。


「あら。もう5時になっちゃった。仕事戻らなきゃ。お嬢ちゃんはお家帰らなくて大丈夫なの?」

「…あっ。帰らなきゃ…」
"また会える?"そう言いたいけどなかなか言い出せなくて、俯いてもじもじしてるとポンと頭を叩かれた。


「変な話しに付き合ってくれてありがとうね。じゃあね」

「う、うん……」

手をヒラヒラと振ってとき子さんはどこかに行ってしまった。
もう会えないんだ。って思って悲しくなったけど、でもそれから3日後とき子さんはまた公園に来た。

私は凄く凄く嬉しかった。
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