短編集
□今、空は青
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学校、チャイム、休み時間。
私は一目散に階段を駆け上がる。
重い扉を開くと一面の青。
ここ、屋上から見えるピンクのクジラの看板が大好きだった。
微笑んで、青い空にぽっかり浮かぶクジラ。
瞳の無い未完成のクジラ。
でも今はもういない。
もういないのです。
* * * *
ある日私はあのクジラを作っている人がどんな人なのか知りたくなって
放課後、クジラのもとまで駆けていった。
知らない道を突き進みそして
寂しげな林の中に、小さな小屋を見つけた。
ボロボロで窓もドアさえもついていない。
…中に人が見える…。
ドクン、と胸が鼓動する。
ドアに近づく。男の人が大きな画用紙に黙々と何か絵を描いていた。
「…あのクジラ、あなたが書いてるの?」
「…ん?そうだよ」
突然現れた制服姿の私に、彼は何の違和感もなく笑いながら答えた。
笑顔の彼は不健康にやつれていて、目の周りが茶色く窪んでいた。
そして側に、割れた注射器の破片が散らばっているのが見えた。
私はすぐに悟った。
ああ、彼は薬をやっているんだわ。