■小説

□ずぶ濡れ
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「傘持っていかなかったの?ずぶ濡れじゃない」

玄関で母がずぶ濡れの裕希と悠太を迎えた。

すぐに玄関はびしょびしょになってしまった


「風邪引いちゃう、早くお風呂入ってきて」

すぐにタオルを出して、2人に渡した。

ずぶ濡れのまま家に入る訳にはいかないから、とりあえず靴下だけ脱いで2人で風呂場の洗濯機の前まで行って、持っている靴下を洗濯機の中に放り込んだ

ついでに着ていた制服も脱いで洗濯機の中に放り込んだ

ズボンは流石に脱いだらパンツだけになってしまうので冷たいが我慢した

「どっちが先に入るの」

母に渡してもらったタオルで体を拭きつつ、悠太に祐希が尋ねた

「一緒でいいんじゃない」

「えー…流石に2人で入ったら詰め詰めになって、暖まるどころじゃないでしょ」

否定する祐希の言葉に、悠太は、じゃあ先にどうぞ、と返す

「いいよ悠太先に入って、俺見たいアニメあるし」

裕希はそう返して、風呂場を出て行った。


テレビを急いでつけてオープニングを欠かさずに見ることに成功した

でもタオル一枚と濡れたズボンでソファに座ったせいで母に叱られてしまい、CMの時に急いで着替えに行った


ズボンを脱いで洗濯機に放り込んで、少しボーっとしていると、肌寒くなってしまってくしゃみが出た

風邪引いたかなー…


風呂の中からシャワーの音と黒いボヤーッとした悠太の背中が見える

暖かそうだな、と風呂のドアを開けた。


すると、シャワーを浴びている悠太が少し驚いた表情で振り返った

ぼあーっと出てきた湯気が暖かくて気持ちいい

「…どうしたの」


湯気に包まれた悠太に飛び込んだ。

「ちょっと…冷たいよ。せっかく暖まったのに…」

悠太はまるでお湯入れたてのカップのように暖かくて冷たい体にジーンときた


「ていうかパンツだけで何してんの。冷めるから一緒に入ろうっていったのに」

入るんだったらそれ脱いできなよ、と悠太は顔だけをこっちに向けながら言ったので、祐希はドアを閉めて洗濯機にパンツを放り込んで急いで湯船に入った


「あー…あったかい…」


「祐希風邪引いたんじゃないの」

「んー…大丈夫なんじゃない」

風呂の中に潜りこんで、プハッと出てきた


「昔2人でどっちが長く潜っていられるかってやったよね」

潜って全身ほくほくの祐希が言った

「風呂の中でじゃんけんしたりとかね」


シャワーの湯をジャーっと祐希の頭の上からかけると、祐希は少し嬉しそうな顔をした


「もう2人で潜るとか無謀過ぎるよね。…いつの間にこんなに成長してたんだろ…」

まじまじと悠太の体を眺める祐希に気づいて悠太は体を向こうに若干向けた

「あの…こっち見て言わないで下さい…」


「だって悠太俺よりそれー…っゲホッゲホッ…」

反射的に祐希の顔めがけてシャワーをかけた


「変な事言わないの」

「別に言ってないよ」

シャワーを避けて、ぶーっとした表情の祐希が言った。


「祐希こそどうなの」

「…別に俺は普通だよ、変わってない」


少し間をおいて、横を向いていた悠太が振り向いた

「変わってないのは絶対嘘でしょ」

なぜか悠太は少し楽しそうな声で言った

「…そりゃ変わってないことは無いですけど…」


湯船の中で体を丸める祐希を見て、悠太は祐希の方に近づいてきた


「…ちょっと…何ですか…見て楽しいの」

「変な事言ったお返しだよ」


少し顔を赤くして祐希はもっと丸まった


流石に可愛そうになってきたな、と思って、祐希の入っている湯船に一緒に入った

祐希が丸まっているおかげでそこまで狭くは無かった


「せまいよ悠太…」


軽く笑う悠太に、顔を埋める祐希。

顔を埋めているせいもあって、熱くて熱くて倒れそうだと思った。

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