初恋

□鳥より雪より優しさをA
1ページ/3ページ

〜吉野 千秋〜


実際、優は恋人としては申し分ない。と云っても普段二人で遊ぶ時と余り変わらないが、それでも室内で漫画を読み漁っている何時もとは違い、二人で──画材屋だが──買い物に行ったり、資料と称して映画を見に行ったりと、恋人同士っぽいと云えば恋人同士っぽい日々を送っていた。


「スゲー楽しかったな!!」

「千秋、燥ぎすぎ」

今日は、諦め掛けていた『ザ☆漢』の展覧会のチケットを優が持っていたため、ネーム作業を前倒しして遊びに来たのだ。

「やっぱ伊集院先生ってスゲーよな……つーか神!?」

興奮を抑える事が出来ずに喋り続ける吉野に、優は何処か呆れた様な声色で口を開いた。

「──…じゃあさ、今から俺ん家行く?」

「行く行く!!朝まで語ろーぜ!!俺今日はぜってー寝ねーし!」

優とは漫画の好みが合うし、第一に二人とも伊集院 響先生の大ファンだ。特に吉野にとって自分には到底描けないあのハードボイルドな世界は、とてつもなく面白い。

「伊集院先生の生原稿見れてホント倖せだわー…。今日はマジありがとな、優!!」

既に空が暗い。こんな時間まで付き合わせてしまった事を申し分なく思いながら礼を云う。

「悦ん
で貰えたなら俺も嬉しいよ。……つーか、雨降って来そうだから早く俺ん家行こう。晩飯少し時間掛かるけど、カレーなら良いよな?」

確かめる様に訊ねて来る言葉に破顔する。妙なところが凝り性な優は、ルーもスパイスを練り上げて作っている。基本的に吉野とは味の好みが違うのだが、カレーだけは羽鳥の作るモノよりも優の作るモノの方が好きだったりする。

「うん。俺、優の作るカレー好き」

云った瞬間アスファルトにポツリポツリと模様を描き始めた空に、吉野は慌てて彼の手を引いて走り出した。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ