初恋
□濡れ熊@桐横同盟
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濡れ鼠ならぬ、濡れ熊。
月刊エメラルド作品を何かと贔屓にしてくれる本屋に寄り、店長に挨拶してから帰ろうと思っていたのだ。だのに
『今店長いないんスよねーすみません横澤さん、折角雨の中来てもらったのに…』
『…雨?』
店長の代わりに現れたキラキラと輝く王子様に、申し訳なさそうに云われて店の外を見る。見れば、さっきまでの綺麗な夜空はどこへやら。暗雲に飲み込まれた空はアスファルトを黒く染めていて。
『傘いります?』
『いや、いい。この位なら』
そう云って出てきてしまったのが運のつきか。
書店を出て数分。滝の様な雨に見舞われ、瞬時に全身ずぶ濡れになってしまった。今から引き返して傘を借りるのも互いに面倒だろうと足を進める。
しかし豪雨に加え暴風まで吹き荒れる始末。
仕方ない、と屋根のある場所へ避難してから携帯を開き
──…家に帰れそうにない。少しの間、あんたの家に邪魔していいか?
比較的近くに家を構える彼にメールを送る。
しかして直ぐに帰って来たメールに一瞬だけ眉根を寄せるが、迷う事なく足を向けた。