memo小話


□勝手にコラボ!(Brave10)
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月が、綺麗だ。

夜、月希は屋根の上に登り、空を眺めていた。
真っ黒な天空に在る、白い月を見つめて、特に飾り気のない言葉を心の中で紡ぐ。

此処、上田にやってきてからというもの、ただでさえ会えない八重との時間はより少なくなった。
月希にとって、それは拷問以外の何者でもない。

さらには。

「オイ、こんなところで何してんだよ」

厄介事が、増えた。
今の今まで1人でぼうっとしていたのに、思い浮かべた厄介事がタイミングを見計らったかのようにやって来た。

「やあ、・・・哉伊」
「おう、で何やってんだよ」
「ちょっと月見をしていただけさ」

肩を竦めて、苦笑いをこぼす。
別に深い意味はないし、自分が言った事は事実だ。

・・・ちょっとした不遇を、内心こぼしていただけを伏せては。

「ふーん。
ま、別にいいけどよ」
「哉伊こそ珍しいね、ボクに会いに来るなんて」
「そっちこそ珍しいよな、俺を避けねえで会話するなんてよ」

ツカツカと隣に来て、ドカッと座って哉伊は述べる。

それに思わず、肩が跳ねそうになった。
しかしなんとか踏みとどまって、笑顔を崩さない。

「・・・どういう意味かな?」
「・・・自覚がねえのかシラ切ってるのかは知らねえけどよ、アンタ、俺のこと避けてんだろ?」
「避けてる、そう・・・かな?」
「ああ、少なくとも伊佐那海とかよりは避けてるな。
それで聞きたいんだけどよ、・・・俺さアンタに何かしたか?」

さて、困った。
しかし深く考えては哉伊により、不信感を持たれてしまう。

月希は少しだけ考える素振りをして、困った笑いを作って、口を開いた。

「・・・ごめん。
そうじゃないんだ、気に障ってたなら謝るよ」

なるべく、無難な言葉を選んだ。
しかし月希は見落としていたのだ、この言葉は『濁して』はいるが『否定』はしていないという事を。

(避けてることは否定しねーんだ?)

目の前で困った顔を浮かべている月希を、哉伊は一瞬だけ鋭い目つきで見つめた。
しかしその一瞬は、忍でもなければ見れなきほどの、刹那の時間。

ゆえに、月希が気づく事はなかった。

「・・・イヤ。
避けてる理由が俺にあるんじゃねーなら別になんでもいいや、・・・悪かったな」
「こっちこそ、気分を害しちゃってごめんね?」

哉伊は座らせていた腰を持ち上げ、月希に背を向ける。
彼女の言葉に軽く手を挙げて返事をし、身軽に屋根から消えた。

(バレた、かな?
いや・・・何かに勘付かれたかもしれない、だから勘ぐり深い忍って厄介だよ・・・)

哉伊がいなくなったのを、そっと確認してため息を吐く。
はあ、と吐き出した息は誰にも聞かれる事なく、空(くう)に溶けた。

何かと勘が働き、疑り深い一面を持っている哉伊。
いや、そもそもそれが忍として当然かもしれない。

此処にいる忍は、みな人を信じやすいのだ。

才蔵は元は警戒心は強いだろうが、彼が弱っているところを突いたため、時間はかかったものの信用を得た。

佐助に至っては、忍にしては純粋すぎると思ったくらいだ。
口では嫌いだのなんだのと言いつつも、結局は信用して、頼りにしているのだから。

(まあ、哉伊の場合は伊佐那海にさえ危害を加えなければ必要以上に干渉してはこないだろう。
これといって世話を焼く性格にも見えないし、伊佐那海の点さえ注意していれば、あとはのらりくらりとなる・・・)

ちょっと今後のために、気をつけよう。
月希はそう整理して、自分も屋根から降り立った。



それからほどなくして、出雲に向かう事が決まった。
メンバーは才蔵・伊佐那海・筧・哉伊・月希の4人だ。

それをアナスタシアに報告してもらおうとしたが、自分が直々に来いという事で、久しぶりに八重にも会えた。

「お前、なんか機嫌いいな?」
「え、そうかな?」

ギクリ、と才蔵の言葉に反応した。

監視のためとは言えど、彼とは相棒の関係。
自分の些細な変化も、きっと彼にはお見通しなのだ。

「おう、いいことでもあったか?」
「んー・・・、ちょっとかわいい子に会えたから、かな?」

佐助の木菟をチラッと見て、言葉をかわす。
そうすれば才蔵も納得したようで、ポンと頭を撫でてきた。

(危ない危ない・・・)

しかし言葉に嘘はない、彼は自分の言う可愛い子の対象を間違えているだけなのだ。
月希に『この子やっぱりかわいいよね!』と同意を求めてくる伊佐那海を宥めながら、そう解釈した。



そして、出雲。
暗い地下の中で、月希は焦がれた少女と再会する。

しかし今の自分の立場は、敵。

駆け寄りたくても、抱きしめたくても、声をかけたくても。
それらは全て、できないのだ。

(ああ、忌々しいな・・・)

今の立場が、実に忌々しい。
これほど現状を鬱陶しく思った事はないと、月希は腕を掴んで思った。

「・・・・・・」

それを、訝しい顔で哉伊が見ていたとも知らずに。

月希は伊佐那海を守るように立ち塞がったまま、戦いを見守っていた。
才蔵は半蔵を、筧は桜割を、そして哉伊は八重を、相手にしている。

(哉伊、必要以上に八重を傷つけないでよ・・・?)

実力は、どちらかと言えば八重の方が上だろう。
しかし哉伊とて忍、簡単にはやられないはずだ。

「・・・っ!?」

すると、八重の鉈が哉伊の首を捕らえる。
そのままの勢いで振り落とされんとした刹那、半蔵が才蔵によって斬られ、倒れた。

八重はその光景を瞳にいれ、行動をやめる。
いや、信じられない光景に止めざるを得なかったのだろう。

──・・ダァアンッ!

すると、耳に入る銃声。
次いで八重の体が、ゆっくりと地面に倒れた。

「・・・!!」

この中で、銃を使うのは筧しかいない。
月希の怒りの矛先は、すぐに彼に向かった。

「筧さん!!」
「ぬっ!?」

今まで聞いた事がない月希の怒声に、怒鳴られた筧のみならず、才蔵や哉伊。
助けに来た(と思われる)鎌之助までもが、瞳を見開いて、驚いていた。

「・・・っ、!
ま、まだ伊佐那海と同い年くらいの子になんてことするのさ・・・!?」
「何を言う月希!
こちらは不意打ちをもらったのだぞ!? それに助けねば哉伊がどうなっていたか・・・!!」

感情が理性を凌駕し、つい怒鳴ってしまった。
すぐに月希はハッとなり、なるべく怪しまれない言葉を放つ。

だがそのあとすぐに返ってきた筧の反論に、月希は口を噤んだ。


地上へと上がり、月希はとりあえず筧に詫びた。
筧は気にするなと言ってくれたものの、敵に情けは不要だぞと注意してきた。

「ホントだよな、お前どっちの味方だ!って思っちまったぜ」
「・・・!」
「お前にとっての敵はどっちだよコノヤロウ!ってな〜」

口調は軽いものの、瞳は鋭い。
先ほどの一件が、よほど効果があったようだ。

「うん、ごめん・・・。
ボク、どうかしてたみたいだ・・・」
「・・・別に、自覚あるならいいけどよ」

しゅん、と項垂れて哉伊に詫びる。
彼女は一瞬だけひるんだものの、そっぽを向いて言葉を放った。

(あの才蔵が心底、信用してる奴だからな・・・。
だから最悪の結果なんて、予測しちゃいねーけど・・・)

彼女が何かと世話焼きなのも知っている、敵に情けじみた事をかけるのも。
だから今回もそれと同じようなものなのだろうと、哉伊は思っていた。

だが、どうしても。
心に残るわだかまり、これが哉伊にとって気持ちが悪かった。


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