長編

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「するってーとアレか。異世界から自分は召喚されたと、そう言いてェのか」

「召喚とか中二病みたいなこと言わないでください。トリップです。何かの拍子に飛んできちゃったんです、きっと」

「いや、十分中二臭いから、それ」


とりあえず場所を移動しよう、とお兄さんに連れて来られたのは何処ぞの公園。
学校はどうしたのだろうか…小学校低学年くらいの子供達が元気に走り回っている。
あ、あの子達も着物だ。

公園の木陰にあるベンチに並んで座ると、風が心地よく二人の間を吹き抜けた。
過ごしやすいなぁ…ここも春、なのかな?

チラリ、横に座るお兄さんを横目で見遣る。
お兄さんは途中で寄ったコンビニ(まさかあるとは思わなかった。)で買った、1リットルパックのいちご牛乳をラッパ飲みしている。
甘い物が苦手な私は「うへぇ…」と顔を歪めて、自分のアイスティーを口に含んだ。(お兄さんに買ってもらった。微糖は大丈夫なの。)
おかしな事を言ってしまった気まずさを誤魔化すように、きゅぽん、とペットボトルから口を離して、私は口を開いた。


「会ったばかりの貴方に、変な事言ってすみません…。信じて貰えなくても結構です。私もまだ憶測の域だし、ちんぷんかんぷんだし、むしろ信じられないっていうのが普通だし。とりあえず、それくらいのレベルで何も分からない迷子だと思って頂ければ」

「…そーかい」

「はい。…あの、私くらいの年齢の人間はどんな仕事をしているでしょうか?」

「ああ?あー…そうだなぁ…無難にコンビニか喫茶店か甘味屋か、正統派OLか。ま、ここはかぶき町だからな、お前ェくらいだとキャバ嬢が多いな」

「え…それって、キャバクラ嬢?」


ああ、とお兄さんは気だるげにまた一口いちご牛乳を口にした。
ほげーっと死んだ魚の眼でどこかを見ているお兄さんをそのままに、私は一人考えを巡らせた。

ふーん…キャバもあるんだ。
さっきのコンビニでも十分なサプライズだったのに。
ますます意味が分からないな、この世界。何時代だよ。
そういえば大学生時代、友達と一緒に「社会経験だー!」なんて言ってキャバの体入した事あったっけ。
日給良いから何日かやってちょっとしたお小遣い稼ぎしたんだよね。
酔ったおじさんの相手は、たまーに面倒だけど、まあ楽しくお話してお酒飲んでれば良い仕事だったから、然程苦でも無かったなぁ。

―――今、身寄り無しである私はとりあえず一人で必要最低限の生活をしなきゃいけないわけで。
それにはお金が必要なわけで。
一日でも早く、且つ多めに必要なわけで。
それはつまり、割の良い仕事が良いわけで………。


「よし」

「?」

「お兄さん」

「おう」

「私、キャバ嬢になります」

「ブフォッ!!」


気だるげだったお兄さんの瞳が一瞬にして見開かれ、その口から盛大にいちご牛乳が吹き出した。


「うわ、きったな(大丈夫ですか?)」

「聞こえてる!聞こえてるからねそれ!本音と建前が逆になってるからね!」


ゲホゲホと噎せながら自分の口を袖口で拭うお兄さん。
ちょっと申し訳なくて、スカートに入っていたハンカチを手渡した。


「私、お金が必要なんです」

「そりゃあ分かるよ。お前ェの話が本当なら、マジで文字通り、身一つで稼がなきゃなんねェ状況だしな。だがよ、だからっていきなりキャバ嬢は…なんかこう…一応ちょっと保護した身としては居たたまれないというかね…なんか俺が奉公に出してるみたいなね…」


ごにょごにょと何か呟いているが、ようは、少しでも心配してくれてるらしい。
良かった、やっぱりお兄さん良い人。
でもこんな良い人に、これ以上迷惑かけるのも嫌だから…。


「大丈夫ですよ。なんとかなります」

「………」


にこっ。
お兄さんに笑いかける私を、彼はじっとその紅い瞳で見つめ返してくる。
なんだか、この目は苦手だな。

ぜーんぶ、見通されそう。


「私、順応性はかなり高い方ですから」

「…………」

「ほら、実際、別世界に飛ばされてもなんとか理解出来てそうですし」

「…………」

「私、結構強いですから」

「…っだぁぁぁぁぁぁ!!」

「!!」


突然、お兄さんが発狂した。
なんだなんだ、何が起きたの。
体の中でいちご牛乳が噴火した?
頭パーンした?
言わんこっちゃない…あんなに飲むかr…「ちっげーよ心の中の言葉出ちまう癖どうにかしろや!」

ごほん、と、一つ咳払いをしてお兄さんは畏まった様子で私を見返した。
…怒鳴ったり、突っ込んだり、神妙になったり、忙しい人だな。


「良い仕事、あるぜ」

「え?」

「…雇ってやるよ」

「………へ??」


お兄さんに?
雇われる?
いきなり言われた事をすぐに理解出来ないでいると、お兄さんは私の手元に小さな紙を差し出した。


「名刺……?『坂田銀時』…『万事屋 銀ちゃん』?」

「んな不安そうなシケたツラで酌するってか?辛気臭さ丸出しの女じゃ、キャバ嬢は務まらねーよ」

「っ…?」

「お前ェ、営業スマイルへたくそ」

「!」


やっぱり、思った通り。
この人には見通されてしまうのか。
不思議な人…。
ふわりと大きな手で頭を撫でられる。
その温もりと、私の不安を見抜いてしまう彼の優しさに、ちょっと涙腺が緩む。


「ま、お前ェのその辛気臭ェ顔がちっとはマシになったらキャバでも何でもやれや」

「お兄さん…」

「それまでは、このイケメン社長がお前ェの事、雇って雇って使い切ってやらァ」

「……っよろしく、おねがいします…」


おーよ。
そう言って二カッと悪戯に笑ったお兄さんは、また私の頭を撫でつけるのであった。



でも、結局、私なにすれば良いんだろう。


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