長編

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なんで…。
なんでなんでなんで…!


「ちょ、待てよォ〜」

「キム○クか!待てるかっ馬鹿かあんたら!」

「強がっても無駄だってー」

「諦めて一緒に仲良くヤろうよー」

「ナニをだぁぁぁ!!ひィィィッ!!!!」


なんで私なんかがヤリ目の兄ちゃん達に追いかけられなきゃならないんだー!!


いつも通りの帰宅だった。
晴れて社会人の仲間入りを果たして、早一ヶ月。
まだまだ慣れない仕事をこなし、残業する先輩達に頭を下げながら定時に退社する毎日。
体力的にも精神的にもきつい中で夕飯の買い物を済ませ、今日も疲れた足を愛しの我が家へ向けて動かしている所だった。
入社と同時に始めた一人暮らしは、寂しいがやはり自由な分快適であった。
親は「女の一人暮らしなんて…」と心配していたが、「私を襲う物好きなんて居ないってー」と笑い飛ばしてしまうくらい。
現に、この一ヶ月無事に過ごせていたし。
…その油断が、今回の事を招いてしまったのかもしれない。


「ちっ、いい加減諦めろよめんどくせーな!」

「それはこっちのセリフだ!」


家へ続く暗い夜道でこいつらに声を掛けられた。
もちろん最初は無視を決め込んでいたが、肩にかけられた手を反射的に払いのけた瞬間、兄ちゃん達の目付きが変わったのだ。
それを合図に地獄の鬼ごっこがスタート。
今に至る。


「はぁっ…はぁっ…」


追いかけられたまま家に行くわけにもいかず、気付けば見覚えのない路地を駆けている。
走っている内に買い物袋はどこかに放置してきてしまった。
残念なことに追いかけられてから、私と奴ら以外、人っ子一人見かけていない。
ついでにあいつらのくだらない目的も判明し、只今女性として絶体絶命の危機。
これだから男は…下半身と脳が一体化していて、まるで猿だな。


「…さすがに…そろそろ、やばい…かも…っ」


でも、いくら強がったってこっちは仕事終わりで体力無しの女一人。
比べてあっちは、血気盛んな健康男子三名。
むしろ今まで良く逃げて来られたほうだ。
うん、頑張ってる、偉いよ私。


「まてコラー!」

「ちょーっとえっちな事させてくれりゃいいんだって!」

「ひひひっ」

「っ…最低…」


さっきより声が近い。
もう追い付かれちゃう。

その時、目の前に車の通りが見えた。
どうやらこの先でぶつかる道は、ここより人通りがあるようだ。
少しの希望を見出した私は、自身の足に「もう少し」と鞭打った。
しかし、足が動いている感覚は無い。
感覚が無いくせに、しっかり重さは感じるからげんなりだ。
肺も悲鳴を上げている。
それでも懸命に走ったお陰で、目的の道まで残り十数メートルまで近付いた。
もう一頑張りだ。


「もう少し…っ」

「くっそ…逃がすか!」


彼らも、先の道の人通りに気付いたのか。
なんとかその前に私を捉えようと、士気を上げたのを背後に感じた。
殺気にも似た空気を感じ、走りながら振り返ると、迫る一本の手。
ぞくりと、背筋が泡立った。


(捕まる…!)


ププププーーーー!!

その時、けたたましい警笛音が響き渡った。

驚いた私の眼に映ったのは、顔面蒼白の兄ちゃん達と右側から向かって来る車の眩しいライト。
順々にそれらを見たのを最後に、私の思考は途切れた。


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