長編

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ざわざわ。
そんな人の気配を遠くに感じて、意識が浮上していく。
まるで長い間寝ていたように瞼が重い。
ゆっくりと目を開ける時、土臭さが鼻に衝いた。


「………ん…?」


眼を覚ますとそこは、薄暗い路地裏のような所だった。
地面とキスしそうな勢いで、私はそこに倒れている。
目をちょっと先にやれば、大通りっぽい道が広がっているのが見えた。
状況がよく分からないが、ふわふわした頭のまま上半身を起こしてその道を眺める。
ボーっと見ていると、何人もの人がこんな路地裏見向きもせず、その通りを闊歩していた。


「……???」


だがしかし、様子が変だ。
だって、その人たちは皆、着物を着ている。


「???」


確かに私が最後に記憶しているのは、こんな感じの薄暗い道だ。
直ぐ側に人通りのある道もあった。
そこに飛び出すように走って……。


「は!!」


あの男たちは!?
そう言えば私今凄いピンチなんだよ!

急に自分が置かれている状況を思い出し、急いで周りを確認した。
傍でゴミを漁っていた猫が、突然頭を四方八方に振り出した私に驚いて駆け出す。
だが、それ以外の気配は感じない。
ここには私しか居ないようだ。


「やっと諦めたのか…」


しつこい男たちだった全く。


「…いやいやいやいやそれどころじゃないだろコレ」


男たちが居ない事に関しては、良かったうん本当に。
だけどそれ以上に、今現在私の周りでは不可解な事が起きている。
今はそっちを解決するべきだ。
現実を見ろ、私。


「私は死んだの?」


まずはこれだ。
だって私の最後の記憶では、直ぐ側に車が迫っていた。
確実に轢かれてたよね、あれ。
でも、怪我とか無い…痛くも痒くもない…生きてるっぽい…なんで?
………分からない。
解決出来ないので、次!


「ここはどこ?」


いくら似ていると言っても、やっぱりここは最後に居た所とは違う場所。
じゃあここは一体どこだ。
建物と建物に挟まれた、狭い路地。
ゴミ箱とか野良猫とか、若干古臭いシチュエーションが広がっている。
ついでに、道を挟んでいる建物もどちらも木造でこれまた古臭い。
見覚えもない。
………これも分からない。
同じく解決しないので次!


「お嬢さ〜ん?」

「…わたし?」


と、その時、私以外の気配と共に後ろから声がかかった。


「そう、わたし」

「………」

「こんな所で何をしているんだい?」

「……………」

「迷子かい?おじさん達が家まで連れて行ってやろう」

「…………………」

「「「ひひひっ」」」

「………………………」


名無し は にげだした。


「あ!ちょ、待てこら!」

「追うぞ!」


なんだこれ。
なんだこれなんだこれ!!
おい、数分前に全く同じような事あったぞおい!!
そうだねーあの時と違うのはお兄さんからおじさんに変わってるってことかな!
あとは、チャラいのからムサイのに変わってて!
あと、きったない着物着てて!ちょん髷で!
あとは、あとは、なんか腰に怖そうな棒が引っ掛かってるー!!


「なんでやねーん!!!!」


頭の中の整理も出来ぬまま大通りに駆け出した私の叫び声は、憎いほど晴れ渡ったどっかの空に響き渡った。


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